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SS【危険なカオリ】
ぼくはカオリと付き合っている。
カオリは何事も一度やると決めたら最後までやりきらないと気のすまない性格だ。
彼女には暗い過去がある。
二度も彼氏を失っているのだ。
一人は行方不明になり、しばらくして橋の下で土左衛門となって発見された。
もう一人の彼氏も行方不明になったが、いまだに見つかっていない。
カオリはいつもフローラル系の香水を好んでつける。
銃マニアらしいカオリの友人の話では、昔からここぞという日だけはウッディ系の香水に変えるらしい。
そう言われてみると大きなイベントに参加する時は匂いが違う。
カオリにとって勝負服みたいなものなのだろうか。
今夜は中秋の名月。
ぼくは月を見ながら散歩しようとカオリを誘った。
待ち合わせ場所は大きな橋の真ん中にあるベンチ。
彼女が橋を渡り始めたのを確認したぼくは、少し遅れて後を追った。
彼女は知らない。
ぼくがカオリをものにするために付き合っていた男たちを手にかけたことを。
カオリは二股をかけていた。
どちらもぼくが始末した。
一人は鈍器で後頭部を殴り、動けなくなったところを橋から川に突き落とした。
もう一人は背後から近づき首を絞めて気絶させたあと、車で人の背丈ほどの草が生い茂る河川敷へ運び、あらかじめ掘っておいた穴に埋めた。
深く掘ったので工事でもしない限り見つかることはないだろう。
これでカオリはぼくのものになるはずだった。
しかしカオリはせっかくぼくと付き合い始めたのに、別の男とも付き合い始めた。
そういう女だった。
他の男なら許すのかもしれない。
ただ今回は相手が悪い。
カナヅチの彼女は橋の上から突き落とせば簡単に片付けられる。
ぼくはカオリを始末することにした。
「ごめん、待った?」
「今来たとこ」
カオリに近づいたぼくは、香水がいつもと違うことに気づいた。
ウッディ系の香りをまとっている。
中秋の名月を眺めながらの散歩は大きなイベントではないはず。
ではなぜ香水を変えている?
ぼくは不思議に思ってカオリを見つめた。
もしかしたらカオリは気づいているのかもしれない。
もしそうなら漂ってくる香水の匂いは、ぼくに危険を知らせている。
カオリがすべてに気づいてここに来たなら、それなりの準備をしているだろう。
カオリは一度やると決めたら最後までやりきらないと気のすまない性格だ。
つまりぼくに危険が迫っている。
ぼくは軽く周囲を見渡したが人の気配はなかった。
カオリは手に何も持っていない。
肩から開けっぱなしのポーチを下げている。
カオリはポーチから素早く銃を取り出すと、ぼくを数発撃った。
ぼくは苦痛に顔を歪ませ膝から崩れ落ちた。
銃マニアの友人に借りた改造銃に違いない。
身動きの取れないぼくのすぐに横に車がやってきてとまった。
ぼくはカオリと銃マニアの友人に橋の上から突き落とされた。
水面まで距離があるといっても数十メートル。
それなのに、どこまでとどこまでも落ち続ける気がした。
暗闇の中をどこまでも・・・・・・。
翌朝、ぼくは海岸に打ち上げられた。
ぼくの考えが甘かった。
カオリを舐めすぎていた。
まさか銃が出てくるとは・・・・・・。
殺傷能力の低い素人の手作り銃。本物とはほど遠いもののそれなりの威力はあった。
用心深いぼくは、刃物を警戒して防刃チョッキを着ていたことで、弾は身体に侵入しなかったのだ。
カオリたちは、おそらくぼくが生きているとは思っていないだろう。
事件の発覚や復讐を恐れ震えているだろうか?
さあ、これからが本当のサバイバルだ。
きっと今のぼくからは、誰よりも危険なカオリがする。
終
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