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SS【恩を受けた男】


「プルプルプルプル プルプルプルプル」


「はい」


「あ、前田さん?」


「いえ、うちは小林です」


「え? あれ? すいません間違えました」


「はい」



「ガチャ」



「プルプルプルプル プルプルプルプル」


「はい」


「あ、もしもし前田さん? この前の高配当のお得な投資の件ですけど」


「いえ、うちは小林です。かけ間違えてますよ!!」


「あれ? あれ? すいません」


「ガチャ」



「プルプルプルプル プルプルプルプル」


「はい」


「あ、おれおれ」


「どちら様ですか?」


「おれだよ!! 息子の声忘れたの?」


「うちに息子は居ませんけど」


「ガチャ」



「プルプルプルプル プルプルプルプル」


「はい」


「老後の財産を増やす会の腹黒です。本日は・・」


「要らないです」


「ガチャ」



「ピンポーーン」


「はい」


「こんにちは!! 〇〇証券のものです」


「うちには必要ありません。お帰りください」



俺はかつて仲間と呼んでいた奴らに裏切られ地位も仕事も失った。

そして借金だけが残った。

最初は貯金で食いつないでいたが、やがてそれも底をついた。

住む場所も失ったが無駄にプライドだけは残っていたせいで、役所や離れて暮らす家族に助けを求める気はおきなかった。だから俺はホームレスになることを選んだ。

そんな不器用でバカな俺に手を差し伸べてくれたのが同じボロアパートの隣の部屋に住んでいた山田さんというおばあちゃん。

山田さんは煮物を作り過ぎたからとおすそ分けしてくれるような昔ながらのおばあちゃんだ。ぼくとは子どもの頃からの顔馴染みだ。

山田さんはずっと一人で暮らしていて、ぼくが新しい仕事と住まいが見つかるまで居候してもいいといってくれた。

捨てる神あれば拾う神ありという奴だ。


山田さんは以前からセールスや詐欺師の電話や訪問に悩まされていた。

もちろんこんなことで恩を返せるとは思っていない。

ただこれだけは言える。

恩人である山田さんのテリトリーに土足で踏み込んでくる奴はすべて追い払う。そしていつか受けた恩は倍にして返すつもりだ。


さて、頼まれていた米と野菜を買いにいくとしよう。


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