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SS【コレクター】

「こんにちはーー! 〇〇電気でーーす!」

家の奥から姿を現したのは、還暦を少しすぎたくらいの筋骨隆々な男だった。

無駄の無い引き締まった身体に、短く刈り上げた白髪頭と、よく日に焼けた肌がよく似合っている。


「中古品の引き取りはよろしかったですね?」

「ああ。大丈夫だ」


配達に来たのは一人だけで、男と二人で軽トラの荷台に積んであったアイスの販売にも使えそうな業務用冷凍庫を、庭を通り、奥の離れまで運んだ。

男は自分が手伝うから配達員は一人くればいいと伝えていた。


男は昔、自宅に近所の小学生たちを集めて勉強を教えていたことがある。

しかしある日、一番面倒を見ていた子供が謎の失踪をしてしまう。


男はその日以来教えることをやめた。

男が住む村では、数年に一度は子供の神隠しが起こっている。



商品を届け、荷台が空になった軽トラがふたたび戻ってきた。

冷凍庫を運ぶ時、配達員は大事なメモ帳を落としたらしい。

男はすでに出かけているのか呼んでも返事は無い。


配達員にはメモ帳がある場所に心当たりがあった。

離れの中に運び入れた冷凍庫。

そのそばに運び入れた冷凍庫と同じくらいの、布をかぶせられた大きさの物があり、その上に置いたのだ。


離れの戸を開けると案の定メモ帳が置き忘れてあった。

配達員がメモ帳を取って帰ろうとした時、ウエストポーチと身体の間に布が挟まり、布はサーーっと床に落ちてしまった。


薄暗い離れの中で、拾い上げた布をかけようとすると、布をかぶせられた物が冷凍庫であることが分かった。

冷凍庫のガラス窓には黒いフィルムのような物が貼り付けられている。

窓は完全に閉まっておらず、その原因が布の切れ端のような物が挟まっているからだということに気づいた。

配達員は親切心から、一回窓を開けて閉め直そうとした。


しかし、開けた瞬間、自分の目に映ったあまりの光景に驚愕(きょうがく)した。


冷凍庫の中に子供が身体を丸めて収まっている・・・・・・。


挟まっていた布は子供が着ていたパーカーのフードだった。


青ざめた配達員は慌てて車へ戻ろうとし、離れの入り口で仁王立ちしていた男とぶつかって倒れた。

男は冷凍庫にかぶせられていた布が床に落ちていることに気づくと、見る見るうちに鬼のような表情へと変化していく。


「どうしてここにいる? 何か見たのか?」

冷たい目で静かに力強く語りかける男に、配達員は腰を抜かした。


離れの扉がゆっくりと閉まる。




それから一週間ほどして、山の中で配達員の車が発見されたが、本人が見つかることはなかった。


さらに一年ほどしたある日、男はふたたび冷凍庫を購入した。

今回も中古品の引き取りは無しで・・・・・・。







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