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SS【囚人に吹く風】
最近おなじ夢をよく見る。
周囲を城壁で囲われた小さな町。
ぼくはそこで暮らしている。
城壁の上は大人が楽にすれ違える幅の通路になっていて、ぼくは夜遅くから朝にかけて、ライトで町の方を照らしながら巡回している。
たまに町の外の森や遠くの空を眺めながら。
ぼくの仕事は町から誰も出ないように見張ること。
出る者を見逃したら、ぼくは仕事を失う。
この小さな町では一度仕事を失うと路頭に迷う可能性は高い。
町の外は危険だと皆が口をそろえて言った。
外に出たら生きてはいけないと。
だから出ようとする者を、引き止めて説得するのが町の常識だ。
夜の闇にまぎれ町を抜け出そうとする人を発見すると、力強く笛を吹き、城壁の上から脱走者をライトで照らして仲間に知らせる。
ゆいいつの出入り口である町の正面ゲートには多くの見張りがいるし、城壁の地中深くまでコンクリートが敷き詰められているので、モグラのように地面を掘って脱出することもできない。
ハシゴやロープを使って城壁を越えようとする者の前には、ぼくのような見張りが立ちはだかった。
ある日の夜、その夜は嵐が近づいているのか、とても強い風が吹き荒れていた。
雨は降っていなかった。
ぼくは飛ばされないようにロープを通路の一部にくくりつけ、反対側に輪っかを作って、それにつかまりながら夜を過ごした。
とてもじゃないけど巡回なんてできそうにない。
東の空が明るみだすころ、風はさらにその勢いを増した。
突如、突風で町の方から飛ばされてきたトタン屋根が、くくりつけてあったロープに引っかかり、そのまま空へと舞い上がった。
ぼくはロープをはなさなかった。
風にあおられタコのように空高く舞い上がるトタン屋根とぼく。
遠ざかる町を眺めながら、どこへ飛ばされるかわからない恐怖の中で、ぼくは気づいた。
「ぼくはずっと囚われていたんだ・・・・・・」
両手でロープにぶら下がりながら、どこまでもどこまでも空を飛んだ。
迷いの森に晒し者の丘、それから傍観者の川を越えた。
飛ばされながら高い建物に何度もぶつかり変形したトタン屋根は、いつの間にか船のような形になっている。
風は弱まり、ぼくは始まりの海の上にいた。
気がつけば太陽の位置はずいぶんと高くなっている。
ぼくは陽の光に照らされ宝石のようにきらめく水平線を見つめながら、ここから先は君しだいとでも言われているような気がした。
そこで夢から覚めた。
終
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