自作短編 第八弾 『退屈』
以前小説サイトにて書かせてもらった短編の一つを書き直したものです。退屈な人生……それを変えてくれるのはいつだって、同じ人なんだと思います。全ての優しい大切な人たちに、ちゃんと感謝しなくちゃな。などと思いながら。
『退屈』
僕はいつも退屈そうに見えるらしい……まあ、事実そうなのだが。
「ねぇ、君っていつもつまらなそうな顔するよね。楽しくないの?」
周りを寄せ付けない空気を放ち、教室の隅の机で突っ伏していた僕に、テリトリーなど気にせずズカズカと侵入しては干渉してきた女子が一人。
「ストレートに聞くね」
「まあね、で? やっぱり、つまんないの?」
その質問こそめんどくさくて、嫌でたまらないのだが。明らかに顔に出てる僕に怖気付くこともなく、平気で話しかけてくる彼女はきっと手強い。ここは折れて、雑にでも返答した方がいいかもしれない。
「そうかもね。退屈だとそこまで思ってるつもりはないんだけど、顔に出てるって言うなら……多分自覚してないだけで実際退屈なのかも」
「ほぉー」
「まっ、人生って退屈と向き合って生きてくもんでしょ」
「ふむ」
そう言うと彼女はニコッと笑って。
「な、わけない!」
僕の腕をガシッと握った。
「えっ」
「早く立って私についてこい!!」
そこからはあまり覚えてない。ただでさえ体力のない僕を全力で走らせて、二人で緑の中を駆け巡った。間から見える木漏れ日がやけに眩しくて「ああ夏だな」と思ったんだ。
「はあ、はあ……流石にもう疲れたよ」
「君、体力全然ないんだね」
「仕方ないだろ、インドア派なんだ」
「でも」
「?」
「今の君は、とても楽しそう!」
近くのガラスを覗くと、そこにはちょっと嬉しそうな顔をしてる僕がいた。自分でも見たことがない自分に驚きを感じて、不思議と感銘を受ける。おかしいな、本来の僕ならヘトヘトでこんなこと、嫌なはずなのになぁ……。
「はは……本当だ」
…
…
…
それからはあっという間だった。
彼女はその後も退屈そうな僕にちょっかいを出しては、いろんな場所へ連れ出した。時につらいこともあったが、昔に比べてずっと僕の世界は彩りに満ちて。
少しずつだけど、僕は君の隣なら、心から笑えるようになっていた。
「あのさ」
「なに?」
「今も退屈?」
やけに真剣そうな顔につい意地悪に言う。
「困ったことに君のせいで全然退屈じゃないよ、あーあ、困った」
「……そうなんだ、ふふ」
彼女は悪戯に思いっきり笑った。
僕は彼女と付き合うことになり、意外にも頭のいい彼女と同じ大学へ行くため、必死に勉強を頑張った。大学を卒業した後はサラリーマンとして努力する日々……。
「へぇ、似合うじゃん、スーツ」
「うるさい」
やがて僕らは結婚をし、子供も生まれ、僕と君はすれ違ったりすることもあったけれど、つらいときは支え合って、楽しいときは一緒に笑って、人生を歩んでいった。
「ふふ、それにしても、まさか君と結婚するなんてね」
「僕の台詞だ」
「どう? 今は退屈?」
「退屈か……いや、全然。暇がなさすぎてむしろ退屈になりたいぐらいだよ」
「ふーん」
そして、可愛かった子供達も立派な大人になり、改めて、二人での暮らしが始まった。
そして。
あっという間だった。そしてようやく、気づいた。楽しい時間はすぐに過ぎてしまうこと、そして実に儚いことに。
「……僕より先にいくなんて、ひどい話じゃないか」
いつも引っ張ってくれるのは君だったのに、君がいなくなったら、歩く気力すらなくなっちゃって。
ああ、退屈な日々が始まった。
「またつまんなそうな顔して」
そう言ってくれる君もいない。
…
…
…
…
…
…
それから更に時が過ぎて……。
「あれ、ここは……?」
綺麗な花畑が前に広がる、そして後ろには透き通ってる川が。どうやら、あれは三途の川のようで、自分はもう死んでしまったようである。
「なんか、あっけないな」
しばらく歩いてると、誰かが立っていた。霧がかかっていてシルエットしか見えない。
「あっ」
近づくと、ようやくその姿を認識した。
「よっ、久しぶり!」
若い頃の彼女の姿、まんまだった。
「……待っててくれたの?」
「まあね。ていうか! 私がいなくなってからまた君は昔みたいに、退屈そうな顔ばかりして……ほんと見ててイライラした! もっと楽しみなよ、人生を!!」
「ご、ごめん。やっぱり退屈そうに見えたか……」
まあ、事実そうなのだが。
「でも、私も人のこと言えないか」
「えっ?」
「私も君を見てることくらいしかすることがなくて、超退屈だった。やっぱりさ、昔からそうなんだけど、退屈な人を見てるのは退屈なんだよね」
「……」
「だからさ、私は退屈したくなかったから、退屈そうな君にあのとき話しかけたんだ」
「……」
「おかげで人生全く、退屈しなかったよ!! ありがとう!!」
僕は先程から返事が全くできなかった。涙が止まらないからだ。なるほど、ずっと不思議だった。なんで君はこんな僕に、あんな退屈そうだった僕に、話しかけてきてくれんだろうって。僕は君のおかげでずっと退屈しなかったけど、そういうことだったのか……。
「ほら、手、出して?」
彼女は右手を僕に差し伸べる。その光景はあの夏の一瞬をフラッシュバックさせた。
「これからもずっと、私についてきて! 分かった?」
「……ああ、もちろん!」
そうだったんだ。
僕が退屈だったとき、彼女も退屈だったんだ。退屈同士が出会って……退屈を消していった、満足に変えていった。その事実に僕はただ、喜びしか感じなくて!
「二人ならきっとどこでも楽しめるから大丈夫!」
綺麗な花畑を二人で駆け抜けていく。そして彼女は笑って僕にこう言うんだ。
「今の君は、とても楽しそう!」
「はは……本当だ」
これにて短編『退屈』は以上です。人生太く長く生きたいものですね。そう切に思います。そのためにはきっと、人との関わり合いは避けて通れないのでしょう。自分で書いてる小説なんですけど、何故だかためになり考えさせられました。短編を書くことで、誰かがそれを読んでくれることで、何か感じてくれるなら作者としてこれほど嬉しいことはありません。次回作も努力したいと思います。ではまた。
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