この漫画のおかげで、私たちお友達になれたんです|映画『メタモルフォーゼの縁側』
内気でさえない、女子高生のうららはアルバイト先の本屋でBL漫画を購入した老婦人の雪に出会う。
一方、雪は夫の法要の帰り、あまりの暑さにふらりと入った本屋で、「ただ絵が綺麗だったから」久しぶりに買った漫画の内容に家で一人、驚く。
続きが気になった雪は、すぐにまた本屋へ行き、次の巻を購入する。
更に次の巻……が、欠品していることにがっかりする雪。
「こういうの、流行ってるの?」という雪の言葉に熱心に説明してくれるうららを見て、嬉しそうに雪が「あなたも好きなの?」と尋ねる。
「私、誰かと漫画の話をしたかったの」
75歳の雪と、17歳のうらら。
BL漫画が繋ぐ、不思議な友情が始まる。
このマンガがすごい受賞作品を映画化
監督は狩山俊輔。
ドラマ『奇跡の人』、『妖怪人間ベム』、『Q10』など、ドラマの監督が多い印象。
脚本は岡田惠和。
ドラマ「最後から二番目の恋」、「おとなの事情 スマホをのぞいたら」等の脚本も手掛けている。
原作は鶴谷香央理。
『メタモルフォーゼの縁側』全5巻(KADOKAWA カドカワデジタルコミックス、連載はコミックNewtype)。
東京ニュース通信社主催「ブロスコミックアワード2018」大賞、2019年の宝島社『このマンガがすごい!』オンナ編1位、2019年の第22回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞を受賞。
原作漫画の他には短編集と『don’t like this』というコミックスが配信されている。
劇中のBL漫画『君のことだけ見ていたい』を手掛けたのは じゃのめ。
作品はBL漫画『黄昏アウトフォーカス』(講談社 ハニーミルク)、『残像スローモーション』(同)、『宵々モノローグ』(同)など。
主演は芦田愛菜、宮本信子。
大好きなものがあれば、生きていける。
BL漫画が好きなことを周囲に隠し、自分にも自信がなくて引っ込み思案なうらら。
そして、好きなものが出来て、毎日が楽しい雪。
快活そうに見える雪だが、昔、好きだった漫画家にファンレターを送れなかった過去を知れば、彼女にも勇気を出せなかった若い頃があったことがわかる。
それと同時に、人生の後半になり、好きになれるものがあることがどんなに素晴らしいことなのか、生きる希望になるのかも知っている。
雪はうららの背中を軽やかに押してくれる。
好きなものがあるのに、立ち止まってるのは勿体ない、と言わんばかりに。
少しずつ前に進み出したうららには、今までキラキラしていて、自分とは全く違うと思っていた同級生たちも同じように迷い、努力しているのだと見えてくる。
自分が一歩踏み出してみたら、世界が少しだけ変わって見える。
それは、雪の家の縁側で、誰にも言えなかった好きなBL漫画を語り合い、カレーを食べて、お菓子を2人で食べたことがもたらした、ほんの少しの、変化。
才能がある、とか、成功したか、とか、ではなく、純粋に“好き”という楽しさが詰まった作品でした。
好きなものが見つからない人も、かつて好きなものがあった人も、今も好きなものを追いかけている人にも、甘酸っぱい映画です。
作品の内容柄、パンフレットにあるコメントも豪華です。
くらもちふさこ、末次由紀、鳥飼茜、たなと、ひうらさとる、キヅナツキ、麻生ミツ晃、ヨネダコウ、吾妻香夜、中村光……漫画家だけでもこの豪華さ。
今、活躍している人でも、何になれるかも考えずただ好きだという気持ちだけで漫画を描いた時があるんだろう。
そして、今も。誰かに届けようと奮闘しながら。
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