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旅行じゃなくて、旅。個人のワーケーションを京都から見る


鴨川は、夕暮れになると等間隔に並ぶのが地元の通例。地元の生活に根付きつつ、地域外の方にも旅情で愛される川。

日本ワーケーション協会の本部は京都市四条烏丸にある。そのため、私自身も京都へワーケーションに来た人と話したり、案内したりする事も多い。一方で、京都はワーケーションへの取り組みは自治体としては、そこまで盛んではない。それでも京都へワーケーションやノマドライフで来る人は多く、そこから移住に踏み切る人もいる。

その理由は「観光地が多いから」という理由で片付けていないだろうか。その理由にしてしまうと、ワーケーションの本質が見えてこない。自治体が先導していないのに、自主的にワーカーが訪れている理由をもう少し噛み砕いていく必要があるので、自分自身の所感を考えてみた。

なお、今回記す個人のワーケーションとは、個人の決裁権で行うもの全般を指すこととする。例えば、フリーランスや経営者が行うもの以外に、会社員でも会社の経費ではなく、個人の裁量で行うことができるもの。

また、今回の記事の京都は、京都市のみを指して記載。京都府全体を指すものはないため、ご注意願いたい。

そもそも、旅と旅行の違いとは?

京都にワーケーションする人が集まる理由を「観光地が多いから」という理由でする場合は、ワーケーションの本質とも言える部分をライフスタイル・ワークスタイルとして捉えられていない。何故ならそれは単純に旅行業的に考えて、見るところが多いから行くんでしょ?という理由になってしまっている。京都には「旅行」の人と「旅」の人、大きく2種類の訪問者がいる。

そもそも、「旅(たび)」と「旅行」は同じじゃないのか?そう思いがちだが実はその性質は異なる。今回は、以下のサイトを参考にしながら考察をした。

「旅行」は、目的は観光地や温泉、もしくは特定のアクティビティなど、スポットを楽しむもの。だからその間の移動やそれ以外の時間などは極力、楽できるように考える。行程があらかじめ決められているものも多い。

「旅」は移動も含めて、全ての時間が旅の目的であり、旅を形作る要素になる。移動手段も自分のその時の気分や予算、状況で決まり、移動中にふらっと道草をしたり、かと思えば行く予定だった場所を素っ飛ばしたり。でもそのすべてが「旅」の一部。

つまり、圧倒的に余白時間が異なる。「旅行」は修学旅行などにも使われるように、規律が求められる事も多く、自由度が低い。一方で「旅」にはルールや規律が必要なく、自由度が極めて高い。

金閣の捉え方も「旅行」に来た人は目的地として来るが、「旅」で日常も求めている人は、たまたま行けそうだから行く、程度のものとなってくる。

「旅行」と「旅」の違いを最も端的に言うと、同じことが再現できるかどうか、は非常に大きい。「旅行」は「パッケージツアー」となると1通りのものを再現して体験するものとなる。一方で、私もワーケーションは100人いれば100通り存在すると良く言うが、まさに「旅」もそうなのである。

もう1つの要素として、「旅行」というものに「非日常」を求めている傾向にある。日常を感じるような行為や雰囲気は味わいたくないと思う。つまり、エンターテイメント性が高い。一方で「旅」というのは旅先での「日常」も楽しむ、という側面を持っている。「その場所の生活や人々を垣間見る」ことも「旅」の醍醐味と感じ、そこにエンターテイメント性は必須ではない。

個人のワーケーションは「非日常」より「異日常」

住まいのサブスクを展開し、個人のワーケーション実践者に人気のサービスADDressでは、代表の佐別当隆志氏はこの様に記している。

年に数回の観光のような「非日常」ではなく、散歩や買い物、食事や会話、お茶やお酒を飲んでゆっくりする日常生活そのものを、地域や家を変えて、いつもと違ったものにする。そんな「異日常」のある暮らしを、多拠点生活では手に入れることができます。

普通にホテルや旅館で観光地に行くのではなく、行ったことも聞いたこともないような地域に、素敵な場所や暮らしを探しに行く。この日本には、ローカルなお店や自然、そして文化がたくさんあります。味噌づくりをしたり、農作業したり、生まれたての卵や新鮮野菜を頂いたり、地元の方と釣りにでかけたり、ヤギの散歩をしたり。そんな暮らしを月に数日でも日常に取り込むだけでも豊かになる。ADDressに関心を持ってくれているメール会員アンケートでもそんな「異日常」に魅力を感じる方がたくさんいます。

引用:月額9800円からの多拠点生活で「異日常」を手に入れる/佐別当隆志(株式会社アドレス)

つまり、日常を違う場所で送りたいというニーズを「異日常」として、それは「旅」に近い意味も持っている。もしかしたら、アドレスホッパーの方にとっては無意識なのかもしれない。

個人でワーケーションをする人は「旅」と「旅行」では、「旅」を求める人の割合が圧倒的に高いのは、仕事は日常のことだからである。「旅行」は非日常を求めるので、そうなると仕事をどちらかと言うとしない方向に働く。

私もワーケーションをしたことない人が作るワーケーションツアーは、ワーカーに合わないと良く言うが、この「旅行」の要素をてんこ盛りにするから「日常」のことができずに残念となってしまうのである。

多くの方が「バケーション要素をなくしたワーケーションをしたい」と良く記載されているが、それは全て「旅行ではない」という意識からきているものと考えられ、「旅」「日常」のニュアンスが強いものを行いたいと考えているからと思われる。

実際に京都へワーケーションに来る人とは?

日本ワーケーション協会では2022年8月に、京都でリアル交流会を初開催。この中に「観光地」を求めてきた人はおらず、話の中で行ってみたいから「余白時間」に訪れていた。

では、京都を例にするとどのようになるのだろうか?

「旅行」の場合は、清水寺や金閣、銀閣、嵐山、伏見稲荷などを決めて、そこへ行く。食事は祇園四条や花見小路などへ向かい、宿泊地はできるだけ良い旅館やホテルをセレクトするだろう。

京都へワーケーションに来る人は、まず「滞在地」と「仕事場」、「会いたい人」等を決める。京都市内には滞在しやすいホテル、ホステルやゲストハウス、ADDressの家、一棟貸しの滞在施設も存在する。藤田勝光さんが運営するFujitaya BnBの様な場所に滞在したいと、お気に入りを見つける人もいるだろう。

仕事する場所やコワーキングを探し、滞在する。その他知人や家守などで会いたい人がいれば、その人と一緒にご飯の予定を立てたりする。この中の考え方として「日常のこと」をまず、如何にできるかを考えていく。長期の滞在の人だと、洗濯なども重要になってくる。

この時点で、清水寺や嵐山などの観光地の選択肢が出てこない。何故なら日常生活にそれらの訪問は含まれていないからである。

花田和奈さんが共同代表を務めている旅好きフリーランスコミュニティ@worldの京都でのワーケーションの様子を簡単に覗いてみよう。

宮川町の一棟貸しの古民家で滞在地を決めて、そこを軸に普段の各々の仕事タスクや暮らしを決める。そして会いた時間に、街歩きをしようと計画を立てる。

皆が集まって実施した街歩きは、京都市内の西陣エリア。伝統工芸なども残り、京都の暮らしが垣間見れるエリアの1つ。

街歩きは観光客で溢れかえる清水寺や嵐山ではない。京都の日常らしい伝統工芸なども残る西陣エリア。京都で、多様な事業者との協働によるコミュニティづくりや事業への伴走支援、商店街や地域の活性化など幅広い事業展開を行う株式会社ツナグム・取締役タナカユウヤさんに導かれながら、西陣織の様子を見たり、皆でゆっくり話しながら時間を過ごしている。

花田さんのnoteに以下のような記録がある。

みんなそれぞれ仕事量も違うしやりたいことも違う。だから一緒に〇〇しようという予定は事前に詰め込むことはあまりなく、その時の流れとノリで 「明日ここ行こうと思うんだけど、誰か一緒に行く?」 という感じで予定が埋まっていきます。欲を律して仕事を詰め込むも自分次第。メンバーとの交流を重視するのかも自分次第。全ては自己責任。(引用:"今ここを生きる"@worldの旅の在り方

お分かりいただけただろうか?京都にワーケーションへ行く理由は「観光地を巡りたいから」ではないのである。先に目的が決まった後に、スポットを巡るかもしれない、程度なのである。

旅の結果、京都へ流れ着き、その人が京都の魅力を伝えていく

「旅行」で京都に来る人は、京都の混雑した様子しか知らない人である。それは観光都市の混雑する場所へしか行かないからである。一方でワーケーションと旅で訪れる人は、混雑しない京都を知っている。つまり、それは日常そのものである。

俵谷龍佑さんの様に、各地で「旅して働く」スタイルでワーケーションをしてきた結果、京都の日常が好きになり、念願の京都移住を成し遂げた方もいる。京都の場合は、各地を旅した結果、選んだ方が多い。

その影響もあり、京都には個人単位でワーケーションをしている層は想像以上に多い。仕事もプロフェッショナルで行い、プロのフリーランスや自立した会社員が多いのも特徴だ。

先ほど取り上げた旅好きフリーランスコミュニティ@worldにも京都の在籍者が多い。宮口佑香さんもその1人で、PR・ブランディング・取材ライター・ディレクターとして活躍、韓国グルメ・トレンドライターとしても活動し、京都を拠点しながら活動を行なっている。ちなみに、彼女も奈良の出身。

ワーケーションする人、受け入れる人などの境目がなく、ライフスタイルとして全てが自然体。

この流れを見ていると、各自治体が行なっているワーケーションの結果移住したと同じ様な現象が京都でも自然に起こっていると言えるのである。その一方で、古くから人が集まってきた京都では、ワーケーションを自らのライフスタイルとして行なっている人も増えてきている。

つまり、ワーケーションを各地で行なっているワーカーの顔と受け入れ地域の顔が、行政が主体することなく、ごく自然にその姿が存在しているのだ。これが圧倒的に他の地域と異なる京都のワーケーションの姿である。

日本ワーケーション協会は、そういう街に本拠地を置いている。だから「都市→地方」という一方通行のワーケーションの姿ではなく、ライフスタイルとして捉え、誰がどこへ行くのも良いと考えられるのである、と感じている。

私が京都を案内するとき、清水寺や金閣寺を案内したことがない。するとしたら、バスの乗り方だけ教えて、あとは勝手にご自身のペースで行ってくださいという案内だ。

殆どが彼ら、彼女たちに会うという案内をする。様々な推し地域がありながら、京都を選んでいる人たちだから、様々な視点での話に巡り合うことができるからだ。それが来た人にとっての1つでもプラスになって欲しいと願っている。

ツナグムのメンバーや京都周辺に住むワーケーション好きな人たちで、今年から頻繁に会いながら、京都の魅力の再発見を進めている。

京都では株式会社ツナグムが、京都への移住や移り住んだ先の暮らしづくりを応援するWebメディア「京都移住計画」を運営している。彼らの活動自体も京都を「旅」するようであり、ワーケーションをする方にも非常に相性が良い。

京都知恵産業創造の森、関西Beyond the Communityが主催するコワーキングフォーラム関西2022in京都の企画運営も行い、テーマがワーケーションであったため、私も登壇させて頂いた。そのレポートも是非参照いただきたい。


京都に求めているのは「日常」的な要素、つまり「旅行」じゃない

コワーキングフォーラム関西2022in京都は、テーマをワーケーションで行われた。コワーキングもワーケーションも、人や協働がテーマになることが非常に多く、密接な関係がある。

ここまでまとめてきた様に、京都はワーケーション先として個人型に選ばれるがその理由は「観光地があるから」ではなく「その暮らしや日常に興味があるから」である。

つまりワーケーションをしたい人の大半は「旅行」をしたいのではない。「日常」を異なる場所で行う「異日常」つまり「旅」の魅力を大切にする。

ワーケーション=自治体が推進するもの、という認識を持ちすぎていると京都を見落としがちになる。しかし、だからこそ自治体が殆ど先導していない地域へ行く人がどんな人かは、知っておく必要がある。何故なら、京都は実践者も受け入れ側もコミュニティも緩く自然に、存在している。そして「旅行」感覚のワーケーションは基本的にない。

ワーケーションは「旅行」ではない。京都を例にした考え方が、1つの参考となれば幸いである。

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