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コトンタンシードルの母、マリーアニエス・エルー

少しずつ気温が上がり、春の気配を感じるこの頃です。
本日は、国際女性デー(International Women’s Day)

国連によって1975年に制定されました。
春を伝える元気なイエローの花「ミモザ」をシンボルに、この日はすばらしい役割を担ってきた女性たちによってもたらされた勇気と決断を称える日ということで、HEROUT(エルー)の2代目 マリーアニエス・エルーのお話を少しさせてください。

MAISON HEROUT(メゾン・エルー)は、私がアンバサダーとして日本に伝えているシードルとカルヴァドスの名家。フランスの北西部ノルマンディ地方のコトンタン半島で、昔ながらの在来固定種のりんごを使い、古来製法で造る素晴らしいシードルとカルヴァドスの生産者です。私は、その二代目マリーアニエス・エルーの通訳として2016年に出逢い、彼女の素晴らしい人柄と、これまでに味わったことのない複雑で奥深いシードルに惹かれ、日本へご紹介することになりました。

1946年、当時は第二次世界大戦が終わったばかり。HEROUT(エルー)のあるノルマンディは米英連合軍が行った史上最大の上陸作戦の舞台でした。
終戦後の荒れ地にて、新婚の若い夫婦は「未来に残したい風景、子供達に伝えたい文化」に希望をもって、りんご園に付加価値を与えようと
1:土地の固有伝統品種を植えること
2:シードルの醸造所を作ること
を決意しました。HEROUT(エルー)の歴史は「戦後の復興」の歴史です。

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時と共に、りんごの木は育ち、シードル事業は発展し、その二人には6人の子供ができました。しかし80年代以降の、効率化や大量生産、海外からの安価なワインの流入などでシードル産業は事情が変わってきました。
時代の流れの厳しさと戦い、オーガニック栽培、伝統の古来製法にこだわる両親の姿をみてきた6人兄弟の末娘がマリーアニエス。

彼女は、パリで別の仕事をしていたのですが、Uターンでノルマンディの地に戻り事業を引き継ぎました。
そこから、どのようにこの小さなシードル醸造所を経営していくか。
「ホンモノのシードル」が廃れていくのをどうにか食い止めたいという一心で、ノルマンディの中でもシードルの名産地といわれるこのコトンタン半島のシードルを遺産として登録しようと考えました。

昔ながらの造りを続けるシードル醸造所は、家族経営の小規模な農家数軒を残すのみでした。彼女はそんな「同志」達に呼びかけ、組合を作り、コトンタン産のシードルがフランス国家に認められるようAOC(原産地保護呼称)に登録するように働きかけました。そこからなんと17年後もの歳月をかけ、コトンタンのシードルは目出度くAOCに登録されました。2016年、今から5年前のことでした。

また、マリーアニエスは独自の考えで、シードル事業を受け継いだ当初から毎年シードルを保管し、長期間の熟成ができるのではないかと観察を続けてきました。
20年以上経ってようやくその結果が日の目を見る日がきました!
コトンタンシードルは、高級な赤ワイン同様に「長期保存に適した素晴らしい可能性がある」ということをソムリエやオノログ(醸造専門家)などが認め、新しく蔵でシードルを数年保管するサービスも始まりました。
子供の生まれ年のシードルをコレクションして、成人したら一緒にボトルを開けるなんていうことが、そのうち日本でも起こるかもしれませんね。

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そんなわけで、彼女の勇気と愛、根気強さなどにわたしはいつも驚いています。わたしは彼女の家を初めて訪れたとき、ボロボロになったテディベアが寝室のキャビネットにちょこんと座っているのを見つけ、幼いころのマリーアニエスに想いを馳せてしまいました。
古いものを大切にしながらも、ずっと先の時代の事を見据えて暮らしている、そんな彼女は独身で子供もいませんが、未来の子供達のためにできることを常に考えています。
学校給食をすべてオーガニックにしたい、という想いは、行政に働きかけて現実化しつつあります。
また、HEROUT(エルー)の事業は、同じ志をもつ若者に譲りたいという気持ちで、地元出身の幼馴染グループに世代交代をしました。
マリーアニエスが守ってきたシードルは、豊かで繊細な味わいが特徴です。細やかな泡は持続性が高く、翌日も翌々日もオレンジゴールドの液体の中でキラキラと立ち上り続けます。野生酵母だけの力で何か月もゆっくりと時間をかけて育てた発酵の複雑な作用で、味わいのふくよかさと余韻がいつまでも続くかのようです。

新世代エルーチームの若者達は、それぞれの得意分野を生かし、ワイン業界や映画業界へもこの個性豊かな味わい深いエルーシードルを広め、新世代への新しいニーズを開拓し注目を集めています。
日本の皆様にもこのシードルをいち早くお届けし、一人でも多くの方に知られざるフランス伝統の味わいをお楽しみいただきたいと思っています。

わたしの身近な女性、シードル醸造家のマリーアニエスを紹介しました。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
Merci beaucoup



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