冬の切れ端が膝の間を滑る
解け残った白のなかで
胸元の花のコサージュが不機嫌に紅い

雪国の桜は3月に咲かない

点滴のように送り込まれた1095日
その、最後の一滴
いつも通り空は鉛色で
彼女たちにとって、それは赦しがたい罪らしい
蛍光カラーのピンクで飾り立てられた"晴れの日"がしつこく目を焼くので
それで泣いたら
「…ちゃん、ずっと友達だからね!」
生き別れた家族のように抱きしめられた
苗字しか知らない少女だった

朝の天気予報のとおりに、午すぎには雨が地面を叩き始めた

雨音の反響する講堂で
「ザわらザザ春ザ光が差しザザ今日、卒ザザ日を迎ザらザザ
送辞は聞き取れなかった

青と薄紅以外を排斥するこの日に
産まれる雨雲が哀れだった
この国は未だ冬なのに
咲かぬを詰られる花はどこで泣くのだろう

冷えた壇上花の瓶の中で
ここではないどこかで切られ、連れてこられた桜の枝が
所在無さげに佇んでいた

結局、式の終わりまで雨は止まず
最後のクラス写真は教室で撮った

タブレット端末の画像フォルダを埋めようと
モラトリアムたちが足早に駆けていく

残された部屋の窓の向こうには
悄然と、濡れそぼった茶色

「いいのよ」

間に合わなかった蕾が泣きながら笑った

雪国の桜は3月に咲かない

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