瑠璃色

瑠璃色というのを見たかったので
海へ探しに行ったのです

3ぼんのチューリップを横切り
浜大根の群れを跨ぎ
スニーカーを灼くこもれびを蹴って
南へ
南へ
空が青くなるほうへ

とうとう白い砂でできた地球が
後ろ姿をあらわしたころには
空はすっかり群青色で
しかし瑠璃色ではありませんでした
わたしは群青の下に広がる
白い砂をかじってははなれて行く
水のかたちをしたそいつに
ずんずんと近づいて
持ってきたしろいコーヒーカップを沈めると
満を持して持ち上げました

けれどもまっしろなカップの底は
変わらずまっしろなままでした
途方にくれるわたしのつまさきに
急に喧しくなった波音が絡んで
「ああ、だめだめ、瑠璃色は。おまえさんじゃあ小さすぎる」
と、さらさら笑います
それを聞いたわたしはひどくがっかりして
意地悪な波に見られないよう
泣きそうな顔をカップに沈めて
目をつぶって
飲み干しました

すると

まぶたの裏にほんの一瞬
100匹の魚の群れと
うすい夜のきれはしと
冷たい透明と
泡のビー球と
やさしい悲しみが
映し出されました

わたしが口を半分あけて、何もいえないでいると
波が踵を押して、いいました
「大きくなったら、またおいで」
わたしはついににっこりと微笑むと、
逆さまのあしあとを辿りました

しろいカップが手のなかで
一度だけ からん と鳴りました

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