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『Multilingual Subject』 (C.Kramsh)②

P23
外国語学習環境で、外国語を学ぶ学習者にとっての言語とは⇒

実社会から切り離された場所で外国語を学ぶからこそ、若者たちは自分たちの世界への不満や、よりよい世界への夢を外国語に投影するのだ。彼らにとって言語とは、単にやる気のない形式的な構成物ではなく、生きた具体化された現実なのである。

Multilingual Subject (by C. Kramsh), P21

ゆえに⇒

(言語は)彼らの心の奥底にある願望、意識、葛藤を表現するための潜在的な媒体なのである。

Multilingual Subject (by C. Kramsh), P21

そうした言語が、彼らの「主観性」と結びつくプロセスとして

自分の言語的アイデンティティと世界における自分の立場を明確にしようとする若者にとって、語学の授業は、しばしば、自分の言語と思考、身体との関係を意識的かつ明確に突きつけられる初めての機会となる。異なる言語と関わることで、自分の言語、そして言語全般の重要性に気づかされるのである。

Multilingual Subject (by C. Kramsh), P22

では、分析対象として設定した学習者の持つ「言語の主観的側面」
どうやって見出すのか。
ここでKramshがその分析対象とする3種類のデータをあげる。

分析データ その1、

元言語学習者が習得した言語での経験について書いた、出版された証言や言語手記である。彼らは次のような主観的な側面を報告している:
知覚や感情の高まり、自分の身体への気づき、喪失感や権力の強化、想像上のアイデンティティ、投影された自己、他者への理想化やステレオタイプなどである。

Multilingual Subject (by C. Kramsh), P22

分析データ その2、

第二のデータ源は、学習者の手記(第1章)、談話完成度調査(第2章)、言語学習経験に関する口頭インタビュー、教室での談話記録(第4章)、多言語であることの意味に関する一人称または三人称のエッセイ(第5章)など、言語学習者の話し言葉や書き言葉のデータである。

Multilingual Subject (by C. Kramsh), P23

分析データ その3、

ネットワーク化されたコンピュータを使い、電子チャットルーム、テレコラボレーションプロジェクト、テキストメッセージのやり取りをする言語学習者のオンラインデータである(第6章)。このようなデータには、分析的・解釈的に注意を払いながらアプローチする必要がある。なぜなら、画面上の言葉の裏側では、コンピュータは、ポストモダン社会言語学が用いるような分析を必要とする、目に見えないとはいえ影響力のある存在であり続けるからである。

Multilingual Subject (by C. Kramsh), P23

これら3種類のデータの解釈にあたり、参照する分析的概念として
 1、(言語の)象徴的形態と象徴的権力
 2、知覚と欲望
この二つが学習者の主体の構築、自己意識にどの様な関連性を持つか
調べた先行研究を見る。

これらのデータを解釈するために、私は、一方では象徴的形態と象徴的権力、他方では知覚と欲望が、主体の構築、ひいては主体の自己意識にどのような関連性を持つかを概念化した研究を参考にするつもりである。しかしその前に、今使った用語のいくつかを定義しておかなければならない。

Multilingual Subject (by C. Kramsh), P23

主体 Subject」←ここで初めて出てきた。が、
その定義はP43 5節1項で取り上げられる。

★突っ込まれどころとなる用語なので
Identity”, ”Agency”, ”Self” …などの
他の語との違いを自分なりに理解し、
説明できるようにしておく必要あり。

★なお、超有名なB. Norton の著作で使われているIdentityとSubjectの語の
違いについてはこちらに⇒

9) 主体性とアイデンティティを同じ意味で使う学者もいる(Norton2000)。
アイデンティティは社会的・文化的集団との同一性を意味するのに対し、
主体(Subjectivity)は言語やその他の象徴体系の使用を通じて自己が形成される方法に焦点を当てている
個人は複数の象徴的交換に参加し、それ自体が社会的・権力的関係の広大な網の目に組み込まれているため、主体(Subjectivity)は闘争と潜在的変化の場として動的に概念化される。アイデンティティと主体(Subjectivity)に関する優れた議論については、Ivanic(1998)とPennycook(2001)を参照のこと。

Multilingual Subject 注釈(9) P57