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7月20日(月) ~シュンの日記

 さいあく。海ぞく活動がばれて親にめっちゃおこられました。
 ノブ君がしゃべったらしいです。
 いやなことでも日記に書け、と、母ちゃんが言ったので書く。

 東の浜のキャンプ場には、宿はく用のコテージがいくつも建っています。ぼくたちは、倉庫になっているやつをアジトにしていました。そこにずっと前からかくしていたせんり品を、父ちゃんと母ちゃんに見つかってしまいました。
「このPとかAとかのプレートは何ね? 何十まいも、ほら」
「母ちゃん、他にもパってカタカナのもあるばい。おいシュン、これは何や?」
 父ちゃんと母ちゃんがこわい顔できいてきます。
「あの……パチンコ屋のパ」
「は? 分かるように言わんか」
「ぼくたち海ぞくやけん、島の外からなんかうばって来ないかんやん? 姪浜とか西新とか博多とか、いろんなパチンコ屋から、パばかっぱらってチンコ屋にしてきた」
 いずれは町じゅうチンコだらけにしてやろうと思っていました。
「このばかちんがっ!」
 父ちゃんのげんこつはマジで痛いです。火花が飛びました。チンコにするためのドライバーも、ペンチも、全部ぼっしゅうされました。

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 その夜はおしおきで、ぼくは家のものおきに閉じ込められました。甲子園ふうに言うと、2年ぶり5度目です。
「ちゃんと反せいするまで出しちゃらんけんな」
 そう言う父ちゃんは、しょっちゅう中洲で飲んで帰って、母ちゃんからおこられています。何べん言われてもやるってことは、反せいしてないってことだと思います。

「ぷぷっ、バカシュン、ざまあ!」
 ものおきののぞき窓から、蓮姉がぶさいくな顔を出してきました。
「うるさいバカ姉! あっち行け!」
 と、言ってやりました。蓮姉とはもうだいぶ前から、仲が悪いです。8つも歳がはなれているのに、本気でなぐってきたりするのです。ぼくもやり返したら、おっぱいに当たって痛そうにしていました。後で母ちゃんにおこられました。女の急所らしい。
「あんた九州男児なんやから、女の子には優しくせんね!」
 蓮姉のどこが女の子だ。

 まだ冬よりはいいけど、ものおきにはゴキブリが多いからイヤだ。島にいる虫は、町より2ばいくらいでかいらしいです。タケちゃんがいつもびびっています。他にムカデもいるし、スズメバチもしょっちゅう家に入ってきます。

 明日から何をしたらいいのか、ぼくは考えました。海ぞくはもうできません。本当はクラスのみんなみたいに、プレステとか欲しいです。ケータイもぼくは持ってないから、LINEもできません。父ちゃんはいっつも「そげな金はなか」、「なかって言いようったい」と言います。りょうしって何でびんぼうなのかなあ。

 そういえば、蓮姉が最近きげんが悪いのも、そのせいです。本当は、高校を出て、ダンサーになりたいらしいけど、スクールに通う金はなか。
 ノブ君は、頭はあまり良くないけど家はお金持ちです。親がゆうめいなデザイナーとからしいです。ノブ君は太っているのに、着ている服はいつもオシャレです。

 そんなことを考えていると、のぞき窓から母ちゃんが顔を出しました。そして、おにぎりをこっそりぼくにくれました。
「お父ちゃん、今テレビみて笑っとうけん、もうしばらくしんぼうしいよ」
 でも、しばらく待っても来ないので、ぼくはものおきの中をたんけんすることにしました。古いとあみとか、大漁ばたとか、いろいろありました。
 たなのおくのダンボールばこの中に、映画のビデオテープがたくさんありました。父ちゃんがテレビでろくがしたやつです。
 父ちゃんはむかしから映画が好きなので、ぼくもいっしょによくみます。はこの中にはスターウォーズとかターミネーターとか、あと洗濯屋ケンちゃんという映画もありました。これはみたことがないので、いつか父ちゃんとみます。

 たなの一ばん上に白いスポーツバッグがありました。でも、ほとんど灰色くらいに汚れていました。気になったので、はしごを使って床に下ろしてみました。
 その時、やっと父ちゃんが来て、戸を開けてくれました。
「なんばしよっとや?」
「なんもしよらん」
 変なものをさわったせいで、またおこられるかと思いました。でも父ちゃんは、
「おっ! こげなとこにあったったい! 母ちゃん、すぐ勝手に物ば動かすけんなあ」
 そう言って、うれしそうにバッグを開けました。中から出てきたのは、古そうなビデオカメラでした。あちこちに傷があって、窓みたいなところにSONY Hi8と書いてありました。
 ノブ君の父ちゃんとかが、運動会に持ってくるオモチャみたいなやつじゃなくて、こないだテレビ局の人が使っていたのと同じ形でした。あんなに大きくはないけど。

「なんこれ?」
「おれのセイシュンたい」
 父ちゃんはよく分からないことを言いながら、カメラをコンセントにつなぎました。イジェクトというボタンを押すと、「ウィ~ン、ガチャッ」と、さっきの窓のところが開いたのです。
「カッコいい! ロボットみたい!」
「おお、まだ生きとるみたいやな」
 窓の中にはビデオテープの小さいやつを入れるらしいです。まだ使っていないテープが、バッグの中にいっしょに入っていました。
 父ちゃんはレンズのフタを外して、カメラをかまえました。
「おう、シュン、いい顔しろ。シーン16、カット1、レディ・アクション!」
 いきなりカメラを向けられてびびったけど、ぼくはポーズをとりました。
 ぼくはスターになった気分でした。
「どげんや? カッコよかろうが」
「うん!」

 父ちゃんはなつかしそうにカメラをさわりながら、
「とうじの最新きしゅでなあ。くろうと好みのよかデザインばい。これ一台でフェードイン、フェードアウト、スーパーインポーズまでできるとぞ?」
 ちょっと何言ってるか分かんない。
「これ、いくらしたと?」
「んー、百万はしたな」
「百万!」
 父ちゃんはウソつく時、鼻の穴が大きくなります。
「これでなんしよったと?」
「映画たい。なかまと映画ば作りよった」
 映画って、スターウォーズとかかな。父ちゃんすごい。
「じゃあさ、野球ちゅうけいとかできる?」
「野球ちゅうけい? あー、もちろんたい!」
 鼻の穴がまた大きくなりました。
「プレステとか欲しいのは分かる。ばってん、みんなと同じもんば持っとってもつまらんやろ。これ、シュンにやる」
「ほんと? やったー!」
 カメラを、ぼくもかまえてみました。ずっしりと重いけど、なんかプロになった気分です。
「大事に使えよ」
「うん! レディ・アクション!」
 父ちゃんのマネをしてみると、父ちゃんは笑いながらぼくの頭をなでました。
「ははっ、よかよか!」
 こんなにうれしそうな父ちゃんを見るのは、久しぶりでした。

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明日のにっき


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