7月26日(日) ～シュンのひみつ日記

　父ちゃんに、「おりべいらって知っとう？」ときいたら、「お前、何でおりべいらカントク知っとうとや？」とびっくりされた。ポルトガルの映画カントクらしい。おりべいらって名前はブラジルとかポルトガルに多くて、正しくはオリヴェイラと書くらしい。
　オリヴェイラ・ユイ。なんかカッコいい。
　夏休みの間だけってジジイが言ってたけど、夏休みが終わったらどっかに帰るのかな。昨日はムカついたけど、やっぱりユイはきれいだし、主演女優をやってほしい。今日はタケちゃんもノブもいないので、一人で野中のジジイのアトリエに行ってみた。

　入口からアトリエを通りすぎたおくに、屋根つきのベンチがある。ジジイが作ったらしい。そこに座って、ユイが一人で能古島サイダーを飲んでいた。いきなりいると思わなかったので、ドキドキした。ユイはこっちに気付いて、またにらむような顔をした。
「ユイ」
　勇気を出して声をかけてみた。ユイは返事はしなかったけど、無視している感じじゃなかった。
「なんがあったか知らんけど、おれ、お前ば女優としてスカウトしたけん。主演女優。日本語しゃべれる外人がおったら便利やし」
「外人やないっちゃけど」
　やっとちゃんと返事してくれたけど、めっちゃ怒ってる。外人って言われるのがイヤみたいだ。そっか、ユイは日本で生まれたんだっけ。

　ユイは、しばらく海の向こうを見ながらサイダーを飲んでいた。話がつづかないのでぼくが帰ろうとすると、ユイが立ち上がった。そして、右手を出してきた。てのひらを上にして。
「ギャラ」
「ギャラ？」
　ぼくが聞き返すと、「主演女優ば、ノーギャラで使うつもり？」と言ってきた。とにかく、女優はやってくれるみたいだ。ぼくは安心して、「おう、いいぜ！」と答えた。
　ところで、ギャラって何だろう。世の中、知らないことばかりだ。

　もっとちゃんとした日記を書きたい。それに、せっかく記録に残してるんだから、自分がその時どう思ったか、うまく表現できるようになりたい。「かしこくなりたかったら、本ばたくさん読むしかなかよ」と母ちゃんはいつも言う。これからはなるべく読むようにしよう。まずはクッキングパパからだ。
　とにかく、これでやっと女優をゲットできた。どんな映画を撮ろう。昼すぎから雨だったので、家でそのことばかり考えていた。

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