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8月22日(土) ~シュンのひみつ日記

 きのうのことがあって、ずっと部屋にこもってた。母ちゃんが呼んでも、昼ご飯も食べなかった。

 むかしはふつうに泳げたんだけどな。きっかけはあれだ。
 小一のとき、ちょうど父ちゃんのあの絵を描いた後くらいだったと思う。みんなで浜に行って、海水浴をした。ぼくは父ちゃんに肩車をされて、沖の方まで連れていかれた。
「ちょっとシュンば、きたえちゃる。本気で漁師になるんならな」
 そう言って父ちゃんは、ぼくをいきなり海に放り投げた。びっくりして、どうにか顔を出そうとするんだけど、父ちゃんが上から頭を押さえつけてくる。「やめて!」って言っても、水の中で聞こえないし、よけいに息が苦しくなる。水の中でもがきながら、父ちゃんを見上げた。父ちゃんは、笑ってた。
 ころされる、と思って、ぼくは必死で何かをつかもうとした。そしたら父ちゃんのキンタマをつかんだらしくて、父ちゃんは「ぎゃー」と言った。それでやっと、助けてくれた。

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 あれ以来、ぼくは泳げなくなった。
 足が届かないとこまで行くと、あのときの映像が頭に勝手に流れて、もうダメになってしまう。

 きのうはユイに追いつきたくて、何も考えないで、飛び込んだ。死ぬところだった。でも、そのほうが良かったのかも。父ちゃんが漁師をやめたのはぼくのせいだし、もっかい船を買えたとしても、泳げないんじゃ話にならん。役立たずだ。

 カントクも失格だし、漁師も失格。お金もかせげない。家はびんぼうだし、このままじゃぼくは捨てられてしまう。何とかしなきゃ。
 がんばって、いい子になるしかない。いい子って何だろう。

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明日のにっき

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