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7月23日(木) ~シュンの日記

 雨が昼にやんだので、港へ行きました。
 ちょうど父ちゃんが漁からもどってくるころだと思ったら、やっぱりそうでした。水無瀬家の漁船は『白鯨丸』といって、死んだおじいちゃんからずっと使っています。

 父ちゃんが、とれたてのマダイを水あげするところを、ぼくがカメラで撮りました。どれもでかくてピチピチしていました。
「どげんやシュン! 大漁ばい!」
 父ちゃんは、じょうきげんでした。家ではくさいおならをしてしょうちゅうばかり飲んでるけど、働いてるときの父ちゃんは誰よりもカッコいいです。

 今日の晩ご飯はハンバーグでした。ぼくの家ではあまり魚が出てきません。父ちゃんがあきるからと母ちゃんが言っていました。
「おい」
 今日も父ちゃんの合図が始まりました。まず母ちゃんがほうこくします。
「ゲンの犬小屋なおしてもらった。原田さんに」
 水無瀬家では、晩ご飯のときに、その日あったことをほうこくしないといけません。むかし父ちゃんが勝手に決めたルールです。食事中にしーんとしてるのが、イヤだかららしいです。

「次、蓮」
「……別に」
 最近、蓮姉はずっとこれです。
「別にがあるかお前。何ばそげん腹かいとうとか」
 ダンサーになるのを、父ちゃんから反対されたからです。またその話になるのかと思ったら、
「私のことはいい。それより赤潮でダメになったっちゃろ? カキの養しょく」
 蓮姉はフォークでハンバーグをグサグサさしながら、言います。
「もうかるとか言われて、慣れんことに手え出すけんたい」
「蓮! 言いすぎやろ」
 珍しく母ちゃんが怒りました。カキの養しょくがしっぱいして、蓮姉が何でイライラしているのか分かりません。母ちゃんが怒るのも分かりません。父ちゃんはなんか変な笑い方をして、しょうちゅうをつぎながら、「心配せんでよか。どげんかなるって」と言いました。
 鼻の穴が大きくなりました。

「ほんなら次、シュン」
「遠泳大会の練習した」
「あんたホントに行きようと?」
「行きようって」
 母ちゃんは、ぼくが水着を洗たくに出さないので、あやしいと思っているみたいです。水着は、ぼくが自分で洗っています。自分のことは自分でやれ、と言われています。
「あんた、去年もその前も、お腹痛いとか、かぜひいたとか言って、けっきょく一回も出とらんやろ?」
「ちゃんと行きようって!」
 能古小学校の夏休みの行事が、遠泳大会です。島から生徒全員、向こう岸のももち浜まで泳いで渡らないといけないのです。たしか2キロくらいあります。映画なら、海に入るシーンと、上がってくるシーンをつなげばいいだけなのに。

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明日のにっき

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