8月13日(木) ~シュンのひみつ日記
今日からお盆なので、ますますやることがない。ユイともれんらくを取ってないし、ノブは家族でハワイらしい。ハワイも能古島も変わらんやろ。
ひさしぶりにカメラをさわってみた。撮りためたテープをファインダーで見ていると、ユイがいた。たくさん笑っていた。今はもう笑ってないんだろうな。
ユイに会いたい。あやまりたい。そうだ!あやまりに行くんだったら会ってもいいんじゃないか。
昼すぎ、雨が降り出したので、かさをさしてぼくは家を出た。坂道を下りてフェリー乗り場を通って、西の浜からまた坂道を上った。雨なのに全然すずしくない。シャツがべたべたする。
しばらく歩いたら、野中のジジイのアトリエに着いた。この向こうにユイはいる。たぶん。でも、何て言おう。ジジイに見つかってもめんどうだし。
まあいいや、あやまりに行くんだから文句ないだろう。
と思って門を開けようとしたら、後ろから声がした。
「やめとき」
母ちゃんだった。家にいたはずなのに。ぼくが出てからずっとあとをつけてたのか?
「いまユイちゃんに会ってどうすると?」
「でも、ぼく、ちゃんとあやまらな……」
「何ばあやまるとよ?」
やばい。ザコ兄の事件にユイが関係してるって、言ってしまったのと同じだ。
「あやまるっていうか、どうしとうかいな、って」
「あんたがただ会いたいだけやろ。ユイちゃんの気持ち、考えた?」
母ちゃんの言う通りだった。テキトーに理由つけて、ぼくが会いたいだけだった。でも、それでもユイのことが心配なのはホントだ。どうしたらいいんだろう。
そしたら母ちゃんがかさをさしたまま近づいてきて、ぼくの頭に手を置いた。
「あんた、ユイちゃんば、かばったっちゃろ?」
ぼくはびっくりした。母ちゃんは何でか、ユイがあの場所にいたことを知ってるみたいだった。立花のおばちゃんから聞いたのかも。
「ユイちゃんが島におられんようになる、って思った? けど、ユイちゃんの気持ちになって考えてみり?」
ユイがどう思ってるかなんて、分からん。分からんから会いたい。それじゃダメなのか。
「かばわれるほうもきつかとよ。あんたにもうしわけないと思っとるやろうけんね。やけん、今は会わんほうがよか」
じゃあ、ぼくはどうすればいいんだ。母ちゃんだって、ぼくの気持ちなんか分かってないくせに。これでもいろいろ考えてるのに。
母ちゃんはぼくの前にかがみこんだ。こないだぼくをぶったときみたいに。
「けどね、シュン。ユイちゃんば守らなって思った、あんたの気持ちは間違っとらん。やけん、佐古くんのこと、死ねばいいとか、あれはあんたの本心やないっちゃろ? 全部、自分に向けようとしただけやろ?」
母ちゃんは、ちゃんと分かってくれてた。
「こないだは、ぶってごめんね」
何でか、涙がぼろぼろ出てきた。ずっとがまんしてたのに。泣いてる自分にびっくりして、また涙が出てくる。
カッコ悪い。男が泣くのは親のそう式だけや、って父ちゃんから言われてきたのに。雨でごまかそうとして、かさをたたんだ。母ちゃんとあいあいがさみたいになって、よけいカッコ悪い。もう。
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