Little Choices: 鳳来寺山 旧門谷小学校
廃校、という言葉にはなんだか複雑な思いがあり、ちょっと苦手だったりします。自分が通っていた母校が数年後には廃校が決まっている、というのも理由のひとつ。「かつて子供たちが多くいた場所」は、やはり切なさや悲しさを伴うものです。
ただ、最近は廃校がなにやら第二の人生、いや校生を歩む事も増え、新しい活気を取り戻す場所も多くなりましたよね。
そんな場所のひとつ、愛知県新城市、鳳来寺山の麓に位置する旧門谷小学校へ。案内して下さったのは、先日ご紹介した木と革aoyamaの青山さんです。
旧門谷小学校とは...
1872年(明治5年)に郷学校として誕生し、現在の建物は1924年(大正13年)に建てられたもの。戦後生徒の数が減り、1970年(昭和45年)3月31日に廃校となった。
校庭の向こうに平屋の可愛らしい校舎。後ろ側の里山からは、時折お猿さんの声が聞こえてきます。
あれ?なんだかこの校舎見たことある、という方、NHK朝の連続テレビ小説「エール」のロケ地にもなっているそうですね。とてものどかで美しい光景。別に自分が平屋の古い小学校に通っていたわけでもないのに、何故だか懐かしい気持ちになってきてしまうから不思議です。
さて、校舎の中に入る事は出来ないのですが...振り返ると何やら人が集まって賑っているのです。
あっ、ルノーキャトル...行ってみましょう。
そう。このロマンある古い小学校を見渡す最高のロケーションにあるのが、月曜日、火曜日、水曜日と週に3日だけオープンする緑のパッサージュ。なんともこの場にはビックリする程お洒落なディスプレイのパン屋さん、そしてコーヒー屋さんが営業しています。
ウサギさんが印象的なlapin et pain(ラパン・エ・パン)では、オーナーのあけみさんが焼いたパンやクッキーなどを。
「あらいらっしゃい、待ってたのよ。イレーネさんはじめまして」と声をかけてくださるあけみさんは、なんだかパリジェンヌのような雰囲気を携えた素敵なマダム。
そして、お隣にはcoffee nicon。メニューはただひとつ。コーヒーのみ。
「イレーヌちゃん?イレーネちゃん?こんにちは、ぼくは寅さんていいます」
着いて早々お2人には心を鷲掴みにされました...。なんと明るく和やかな雰囲気。平日の昼下がり、メニューが多い訳でもないのにひっきりなしに人が訪れる訳が一瞬で分かった気がしました。
「東ティモールのコーヒー豆です。メニューはそれだけ。美味しいかはわからないけど、ぼくが焙煎して淹れています。あ、見る?焙煎の網も作ったんだよね」
寅さんがおもむろに見せてくださったのは、自家製の焙煎機
「これはねぇ、100均で買ったざるを重ねて取手付けたんだよねぇ。全部で700円くらいかな。」
日付とサインまで書いてあります(笑)
さぁランチの時間。
予約しておいたあけみさんお手製のタンドリーチキンのサンドイッチに、寅さんのコーヒー。そしてデザートにはザクザクのチョコチップクッキー。
古ぼけた建物に、シンプルなベンチ。サンドイッチとコーヒー。それだけ。
それだけなのに。なんか。
言葉にならないくらい満たされた気持ちになるのです。
遠くでは猿がキャッキャキャッキャと騒ぎ出し、それを聞いて私たちは笑い、隣のお客さんが「わたし実はこの学校に最後まで通っていたんです」と突然言い、私たちみんなでなんだか温かい気持ちになる。さらに数年ぶりの知り合いにばったり遭遇し、笑い合って近況報告。
何気ない午後でしたが、本当に幸せなひとときで、あれ以来ずっとまた行きたくてうずうずしています。
学校の入り口手前の土手を降りると広がる、絵画のような景色です。
奥に見えるのは彼岸花。
わたしは天国にいるのでしょうか...美しさに息を飲みました。
あけみさんの「無理しないのよ。楽しめる程度にやるのがちょうどいいの。無理したら楽しくないもの」という言葉をおもいだしながら、ニコニコ家に帰りました。
誰にも教えたくない、でもみんなにも行って欲しい...青山さん、本当にステキな場所に連れて行ってくださってありがとうございました。
info:
旧門谷小学校
〒441-1944 愛知県新城市門谷字宮下26