見出し画像

移住先選びの根拠:ワークライフバランス

こんにちは。アイルランド在住会計士のつぐみです。海外居住者による共同マガジンVACILANDO、第2回目の投稿です。
前回、日本を離れた理由をお話ししましたが、今回はその続きです。

日本を離れる決意は固まりました。では移住先はどう決めたか、それは欧州のワークライフバランスの良さ、これにつきます(次点、欧州の景観の良さと美術館の多さ)。私は、結果として欧州内のアイルランドを選びましたが、アイルランドの良さ自体を語るのはまた別の機会にして、ワークライフバランスを重視するに至ったまでの経緯をお話ししたいと思います。

移住を決める時、自分にとって重要な要素が何かを考えると、一番に仕事が思い浮かびました。時間で考えると、仕事に使う時間って、睡眠時間の次くらいに人生の大きな部分を占めるものですよね。仕事で過ごす時間の幸福度を上げることが、人生の幸福度を上げることにつながると考えたのです。自分がどのような働き方をしたいのか、それが移住先を決めるヒントになると思いました。

長時間労働の功罪


移住前、日本で働いている間、憧れていたのはいわゆるバリキャリでした。男性社会でも引けを取らず、仕事ができる女性。肩で風を切って生きている人を見て、見せかけだけなのかもしれないけど、私もそのように自信満々に生きたいといつも思っていました。

でも社会人数年もたてば、自分がそのようになるには、才能も努力もコミットメントも足りないことに否が応でも気づきます。残業が良しとされる職場で生き残れるのは、本当に頭がよく生産性が高い人か、可処分時間の多くを仕事に投入するコミットメントをした人だけだと思います。

残業がデフォルトの職場にいた時は、美容院や買い物等が不便だったことを覚えています。19時から20時くらいまでの間に所用を済ませ、21時頃からまた仕事することもよくありました。今はだいぶ残業規制が厳しくなったので仕事環境もまた変化しているのだと思いますが。

一度、美容院に行くために、19時から21時頃まで上司の電話に気づかず電話にでなかったことがありました。21時に電話をかけなおしたら「社会人として電話に出ろ」と切れられました。19時は既に定時間外だし、急ぎの仕事があったわけでもないのですが。

私は別にその上司がおかしいと言っているわけではありません。よっぽど強い信念がある人を除いて、周りもみんなそうやって働いていたし、それが普通だったし、それ以外の働き方を見る機会も考える機会もありませんでした。でも、それ以外の働き方を見たり、探したりする責任は自分にあると思いました。

それまで、仕事に時間を費やして当然と思っていましたが、美容院に行ったり、人に会ったり、好きな本を読んだりする時間を犠牲にしてまで追いかける仕事、むしろそれらの時間を犠牲にしなければできない仕事は、やってはいけないのだと気づきました。

一方で、長時間労働のメリットもあると思っています。生産性の低下という側面はあったとしても、単純に5時間かけて生成されたサービスと、10時間かけた生成されたサービスでは、多くの場合で後者の方が絶対的な質は良くなります。日本の製品やサービスの品質が世界的に見ても優れているのは、絶対的な労働時間が長いことが一因だと思っています。

欧州ではあまり労働者が長い時間働きませんが、それを可能にしているのは徹底的な優先順位付けです。優先順位の低いことには見事なまでに労働資源を投下しません。その結果として、欧州では安くて美味しいもの、安くて品質がいいものは基本的に存在しません。需要者は安いモノやサービスに価格以上のものを求めないし、供給者もそこに付加価値をつけることを善としません。

そのため私は、「需要者の立場からすると、日本が住みやすい。供給者の立場からすると、欧州が住みやすい。」と考えるに至りました。

「ワークライフバランスが良い」とは、全ての望みをかなえる魔法ではありません。前述のように、需要と供給が日本より低い位置で均衡しているだけです。労働時間の短さがメリットとして強調されますが、その一方でモノ・サービスの相対的な低品質も考慮する必要があります。自分の人生のバランスをどこでとるか、決めるのは自分です。

そして、私がどちらの立場を重視するか考えた時、供給者としての時間が少なければ、需要者の立場をある程度コントロールするための可処分時間が得られると結論付けました。(これについては、移住だけが選択ではないと後に気づきましたが、この時点では移住以外思いつきませんでした。)


しがみつかない生き方


当時読んだ本で心に残っている本があります。
精神科医・香山リカさんの『しがみつかない生き方』です。

恋愛、お金、子供、自意識…人がしがみつきやすい項目が述べられていて、何かに依存すると幸せになりづらいよ、と説いた本です。おそらくこの頃、私が1番しがみついていたのは仕事や肩書。恋人もおらず、独身の自分に残るものは仕事しかないと思っていたからです。

私は、この本のメッセージは、「グレースケールを許容せよ」だと思っています。グレースケールとは、
・0点か100点の生き方ではなく、60点くらいの自分を許容すること。
・私には〇〇しかないとの思い込みを捨て、私には××も△△もあると認識すること(空欄には、恋愛・仕事・お金・友人などが入ります)。

何かがうまくいかないことって、生きていれば必ずあります。その時にうまくいかないから全部いらない、好きな仕事に就けないから働かないなどの、ゼロイチ的な考え方をしていると、幸せになりづらいです。何かひとつがうまくいかないときに、それを人生の他の部分とごちゃまぜにしないことが重要だと筆者は述べています。

パートナーと別れても自分をわかってくれる優しい友達はいるし、仕事がうまくいかなくてもとびきりの笑顔で私を待ってくれる娘がいるし、人生を構成する全ての要素が100%ではなくても、各々60から70%位を目指してバランスを取り、そして100%でない自分自身を許容すれば良いのだというのが筆者からのメッセージだと捉えています。

20代の頃、色々なものにしがみつきました。でもそれが自分を成長させ、将来の選択肢を増やしたのもまた確かなので後悔はしないでおこうと思います。


まとめ:快適なバランスがとりやすい場所を選ぶ

私はワークライフバランスの良さから欧州を選び、その中から競争が激しそうな大国ではなく、小国に行きたいという気持ちが芽生え、さらにビザ等の関係から最終的にアイルランドに行きつきました。

移住して10年ほど住んで、ワークライフバランスが良いというのは、自分がどれくらい働くかを柔軟に選択しやすいという事だとわかりました。こちらにももちろんバリキャリはいますし、専業主婦も、専業主夫もいます。自分で自分の働き方を選択している人が多いです。働き方だけではなく、自分の趣味に割く時間や、友人付き合いへの時間も自分で主体的に全体的なバランスを決定している人が多い印象を受けます。そのことが私に、自分も自分の好きなバランスで生きていけばいいんだと思わせてくれました。

ワークライフバランスという言葉の印象から、仕事と私生活はゼロサム関係にあると捉えていました。また、仕事と私生活の2つのバランスをとるという意味で用いられますが、実際に生活を構成する要素は2つどころではありません。「仕事か私生活」かというゼロサムの選択ではなく、また何か1つの要素にしがみつくのではなく、全体的に自分の快適なバランスを見つけ、それを実現できる場所が住むべき場所なんだと思います。

最後まで読んでいただきありがとうございます!



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?