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ドイツ特許庁とベルリンの壁の話

EPO(欧州特許庁)関連でドイツの特許庁について少し調べたら、歴史が紆余曲折あって面白かったので簡単にまとめてみました。

多くの方がご存知かと思いますが、EPO(欧州特許庁)の本部はミュンヘンにあります。ドイツ特許庁の本部もミュンヘンの同じ場所にありました(隣同士)。更に調べたら、ドイツの特許庁はミュンヘン、ベルリンとイエナの3か所にあります。そのうち1877年に設立されたベルリンの特許庁が一番古いのですが、第二次世界大戦後に本部がミュンヘンに移動してしまいました。それには、ドイツの分断という歴史的経緯があります。

ドイツは、第二次世界大戦後に東西に分割されました。一応ベルリンにも東と西ベルリンができたのですが、ベルリンそのものが東ドイツのど真ん中に飛び地のように存在していました。そのため、西ベルリンに国の知財権を管轄する役所の本部を置くわけにはいかなかったのでしょう。特許庁の本部を置く場所が新たに選定されることになり、様々な条件において有利だったミュンヘンが選ばれました。(ドイツは、日本にくらべると行政機関が首都以外の大都市にも散らばっているので、特許庁が必ずしもボンやベルリンにある必要もなかったのでしょう。でも特許庁のホームグラウンドだったベルリンは、ミュンヘンが選ばれてしばらくぷんすかしていたそうです。)

ドイツ特許庁は第二次世界大戦中、大戦後とけっこう苦難の歴史を歩んでいます。第二次世界大戦後にはドイツ特許庁の審査中の書類がアメリカに没収され、何年かのちに返却されたものを審査しなおしたそうです。そして戦後から1948年ごろまでは、東西ドイツともに特許庁がない空白の期間がありました。日本の特許庁が戦争直後から稼働していたらしいことと比較すると、ドイツって大変だったんだなと、知財の歴史的観点から切ない気持ちになります。

ただドイツが一方的にかわいそうなわけでもなく、戦時中はドイツのほうが敵国系の特許を没収したりしていたらしいです。そのあとは、ドイツの知財権がアメリカに一時的に没収された時代もありました。(知財権が戦後処理の過程にもかかわってくるのは面白いです。)総合的に考えると、戦争でめちゃくちゃになった上、東西に分裂したドイツの知財システムの秩序回復には、戦後に一定期間を要したということなのかもしれません。あと、ドイツ特許庁の説明にあるように、1945年以降しばらくはドイツ全体が食っていくのに精いっぱいで、知財どころじゃなかったという切実な事情もあったようです。

時系列で整理すると以下のようになります。
ドイツ特許庁@ベルリン(1877年から1945年まで)

第二次世界大戦の被害で特許庁消滅(1945年から1948年くらいまで大空白時代)

東ベルリンに東ドイツの特許庁復活(1948年)

ミュンヘンに西ドイツの特許庁復活(1949年)

ミュンヘンに欧州特許庁がジョイン(1977年)

東西ドイツの特許庁が合併(1990年)
この時のインパクトも大きいものであったらしく、当時の東ドイツ特許庁職員に対するインタビューがドイツ特許庁のサイトに載っています。ただ、審査官とか上のほうの人たちの思い出ばかりで、我々のような事務職員が何を感じたのかも気になるところです。

イエナに特許庁支局が発足(1998年)
イエナは旧東ドイツ地域の都市です。勝手な想像ですが、東西のバランスをとるために政府がとりあえず旧東地域にもひとつ支部を作っておいたのではと思ったりします。(余談ですが、旧東西ドイツの経済格差はまだ日常的なテーマとして存在しています。旧東ドイツの復興支援のための連帯税という税金は、ドイツ統一後30年以上たった現在もまだあります。)

人に歴史ありと言いますが、特許庁にも歴史がありますね。
日本でもきっと紆余曲折があったと思いますが、そういえば日本の特許庁の過去については何も知りません。

なお、ベルリンの特許庁には入口のところに月曜日から日曜日までのポストがあって、そこに書類が投函できるようになっています。どういうルールでポストが運用されているのかわかりませんが、今どきアナログな感じでわくわくします。

間違えて違う曜日に投函したらどうなるんでしょうか?

そして、ベルリンの特許庁支部にも欧州特許庁が入っていました。両者の関係も気になります。EPOはベルリンで何してるんでしょうか?

左下の赤いマークがEPO(欧州特許庁)です

現在のベルリンの特許庁が入っている建物は、西ベルリン時代の特許庁がそのまま引き継がれたものです。そこから徒歩30分ほどの距離に、東ドイツ時代の特許庁がありました。今はフンボルト大学が入っています。戦後ひとつの都市が突然分断され、それでも都市機能を維持するために、特許庁に限らずどの役所もふたつずつ作られたわけで、当時はえらい面倒だったんじゃないかなと思います。そしてそれがまた統合されて今日に至るわけで、特許庁の歴史を通してドイツの複雑な東西分断の歴史にも思いをはせてしまいました。

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