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希望(妄想ストーリー)


31年5ヶ月と10日。
今朝も起床してから眠るまでの
1日のルーティンをこなす。

いつまで続くかわからない。

だけど、今の私に出来ることだけやる。
ただそれだけ。


私は5年前、
一生治らないと言われる病を患ったと知った時
に生きる覚悟を決めることになった。


普通に暮らすということは
とても難しいけど
それなりに近い生活は送れるところもある。

食事をつくったり、掃除をしたり
好きな音楽も聴ける。

お金はないけど貧乏デートに付き合って
くれる友達や付き合ってくれる恋人もいて
くれて幸せだと思う。

だけど治療を継続して行かなければ
生きていることも難しい。

大切な身の回りの人達や大切なものを失ってしまう可能性もある病だからこそ


怖い。
死ぬのも怖いし、生きるのも怖い。

弱い人間だと思う。


病に負けそうになる時
生きていたいとさえ思えなくなってしまう
ことが、身近な人達を裏切っているようで
自分も裏切るようで。


病状が悪化した時でも生きる
という選択を続けられるための方法を
考えたうちの一つに

この不可解な病の私と根気良く
付き合ってくれている一つ年上の恋人
ケンさんに昨年の31歳の誕生日1週間前、


『今年の誕生日プレゼント欲しいもの
 みつかった。』

『何?』

『ケンさんの一番苦手なものなんだけど、
 私が一番嬉しいものでね。手紙が欲しいの。』

『手紙?』


ケンさんはやりたくないこと、面倒なことは
言い訳してとにかくやらない。

無理なお願いとわかってたけど
どうしても欲しかった私の気持ちは
察してくれたのかもしれない。


付き合って6年の間、色々あったけど
病気がわかってからケンさんは戸惑っていた
と思う。

それはそうだろう、

付き合ってる彼女がいつまで
一緒に居られるかわからないのに
このまま関係を続けることを
悩むのは不思議でもない。


お互い自暴自棄になって冷たくしたり
されたりすることもあった。

だけど、生きる覚悟を決めてから
ケンさんは何故だかわからないけど
優しくなった気がする。



ケンさんが仕事で忙しく会えない日が
続いていた。


電話で話すこともできないことが増えた頃、

私は暗い部屋で飲みかけのルイボスティーの
ペットボトルは転がり、うずくまっていた。


重苦しい心の奥の方に太い大剣が
突き刺さってるような胸の痛み

今にも呼吸ができなくなるくらいの
パニックになっていて

誰かに助けを求めることさえ
出来ずに深い黒く沈んだ穴に落っこちて
足掻いても這い上がれない

堕ちていく感覚に飲み込まれそうだった。


こういう時のためにと
必死で手帳の裏に忍ばせておいた

あの手紙を取り出して
震えた手で持つ便箋は小刻みに
波を打ちながら



 ユウちゃんへ


 手紙書くの慣れないから、
 汚いけど許してね。

 今の気持ちを書こうと思います。

 俺と出会ってくれてありがとう。
 
 俺と付き合ってくれてありがとう。

 どうか、生きていて欲しい。
 俺のワガママかもしれないけど。

 俺の願いです。

                ケンより』


ケンさんの書いてくれた手紙の文字は

遠くから撃つスナイパーみたいに

私の心の奥深くに熱い玉が

突き抜けた気がした。


今日という日乗り越える希望の光は

私を照らしてくれてるのかもしれない。




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