エンゲージメント・ストーリー「外資系企業の3分間スピーチ」 第2話
朝礼の効果
朝礼の効果は比較的早くあらわれ始めました。
良かったことは、アメリカの親会社は「毎朝、ミーティングをしなさい」というザックリとした指示は出しましたが、細かく具体的な指示までは出しませんでした。
なので、各部署によってやりやすいようにミーティングの形は変わっていきました。
例えば、僕の所属している部では、初めのうちは個々の予定を発表する時に「その日の帰宅予定時間」などもいうルールでしたが、忙しい時や、帰宅予定時間にバラつきがある時に、遅い人も早い人も気を使ってしまい、本当の予定とは違う無難な、それっぽい帰宅予定時間しか言えない雰囲気になっていったので、帰宅予定時間を言うこと自体が自然消滅していきました。
それぞれが共有する、その日の自分の仕事の内容の細かさも人によってまちまちでしたが、だいたいその場にいる皆がわかるくらいの内容を要約して喋る程度のものに1年ほどかけて自然と統一されていきました。
同じ部のメンバーが毎朝、顔をあわせることで情報やトラブルなど共有されやすくなりました。
さて、問題はミーティングの最後にある司会者の締めのスピーチです。
ネタが尽きたら新しいアイディアが出た
日めくりカレンダーのネタが尽きてきた頃、僕は試しにカレンダーの内容に触れずに最後の締めのスピーチをしてみました。
新聞の記事を一つ要約して喋り、仕事に関わるような教訓と結びつけてみました。
皆、「カレンダーはもういいよね」と思っていたようで、そのあとは「新聞の記事や本の内容を紹介し、仕事に関連づける教訓を言って締める」という流れに変わりました。
しかし、これはあまりいい流れにはなりませんでした。
「最後に仕事の教訓に繋げなくてはいけない」ことが足かせとなり、皆、喋る内容が似てきてしまうのです。
それに仕事の教訓=ポジティブなことじゃないといけないという意識がはたらき、よそよそしいスピーチが続きました。
仕事が忙しい時期は、前もって仕事の教訓になるようなネタを探さなくてはいけないことも負担になりました。
ハードルが下がった
そしてある日、「とても優秀なんだけど、天然で思っていることを言ってしまう」Aさんが司会者になった時に事件(?)は起こります。
Aさん「えー、最後に締めの言葉ですが、今日はそんな暇ないのでスキップさせてください。」
その日は繁忙期で、無駄なことに時間を使うのはやめよう、ということです。それまでも、大きなトラブルがあった時など、朝礼自体がなくなることはありましたが、朝礼はやるけどスピーチは辞退というケースは初めてでした。
「まー、確かにあんま意味ないしなぁ。」
誰もが心の中で納得しましたが、部長は違いました。
部長「いやいや、それはダメでしょ。スキップはなしね。」
この一言に皆、驚きました。なんとなくそう思ってはいたけど、「最後のスピーチは絶対やんなくちゃいけないんだ!」という驚きと、
部長のことを、皆「優秀で仕事一筋、自分の私生活のことはほとんど喋らないクールで厳しい人」だと思っていたからこその驚きです。そこまで(仕事には関係のない)締めのスピーチにこだわりがあるとは思っていませんでした。
実際、部長だけは司会者の当番がなく、当然スピーチもありませんでした。
「そりゃ、やらない人はいいよ」などと、反感の思いなども湧き上がってくる中、Aさんはしぶしぶスピーチを始めました。
グダグダでした。
どんな内容だったかも忘れてしまいましたが、事前の準備なしで、仕事の教訓も何もない、その場で思いついたことを一生懸命しゃべるAさんはとても人間臭く、魅力的にみえました。
そして、それを一番嬉しそうに聞いていたのは部長でした。
以降、朝礼の締めのスピーチはハードルが下がり、何を喋っても良い場となっていきました。
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