見出し画像

東京医科歯科大学での認知症×A.I.の授業

はじめまして。夏の間issue+design でインターンをしています小泉です。普段はカナダの大学でマーケティングを学んでいます。この度、東京医科歯科大学で行われた2日間の集中授業を見学させていただきました。


参加のきっかけ

実は私、以前薬科大学に通っていたというバックグラウンドがあり、さまざまな社会課題の中でも特に社会福祉の関する問題に対して、アイディアの力でどう改善できるのかということに興味を持っています。認知症ははっきりと原因がわからず、完治もむずかしい。でも誰にでもなり得る病気です。そのような難しい病気になってしまったご本人やご家族、周りの人たちが、希望を失わず、自立した生活をおくるために何ができるのか。今回は認知症×AIというテーマでどのようなアイディアが出るのか楽しみに参加しました。

認知症世界の歩き方×AI

今回の集中授業には世界13カ国の学生が参加しており、講義やグループワークは基本的に全て英語でおこなわれました(!)。1日目は認知症世界の歩き方の講義からです。認知症ときいてイメージする「今までのことを全部忘れてしまうのではないか」「神経質になって常に怒るようになってしまうのではないか」「理解できない行動をするのではないか」といったことは、多くの場合固定概念や偏見によるもので、実際にはそれぞれの症状に基づいた意思のある行動であり、原因を正しく知れば十分理解・予測できるものであることを学びました。

まずは認知症の方の困りごとを学びます

続いて3rdschoolの山田さんによるA.I.についての講義では、近年大注目の生成AIが実世界でどのようにつかわれているのか学びました。大学生の中でも普段から利用している人が多いChatGPTをはじめ、画像生成や文章の読み上げ、さらにはAIロボットまでものすごいスピードで進化していくAIの可能性にわくわくすると同時に、人間にしかできないことは何か、また私たちの生活をゆたかにしていくためにはどのようにAIを使っていくべきなのか考えさせられました。

アイディア出し・プレゼン

1日目の後半から2日目は、それまでの講義を踏まえて、認知症の方の困りごとを解決する新しいAIプロダクトを考えました。まず、3つのシチュエーションでの認知症の方の生活のなかでの困りごとから、それがなぜ起こってしまうのかを考えます。例えば「電車に乗って目的地に行こうとしたけれど電車から降りられなくなってしまった」というケースでは、目的地を忘れてしまったという理由だけでなく、電車とホームの溝が広く感じられて降りられなくなってしまったという理由や、動こうと思ったけれど体が思うように動かなかったという理由も考えられます。このような原因を特定した後、AI技術を使ってこれらの問題をどのように解決できるかグループごとに考えました。

困りごとの原因になっていそうなものに付箋をはります

VRトレーニングやモバイルアプリなど現実的なアイディアもあれば、「トラウマの原因となっている記憶を消してしまう」といったちょっと過激なアイディアも… AIの可能性と倫理のバランスはAIを考えるうえで常に関わってくる問題です。

A.I.を使った新製品の案をお互いに紹介します

2日目の最後にはグループでのアイディア出しを基に個人でひとつプロダクトを決め、約5分間のプレゼンを行いました。AI搭載のスマートレンズやカメラやチャット機能付きのショッピングカートなどユニークなアイディアがたくさん出ました。どのアイディアも、困りごとに対して周りが全てやってあげるのではなく、なるべく自立して生活するためのサポートのためにAIを活用するといったもので、1日目の講義やそれぞれの生徒さんたちの医療的なバックグラウンドが反映されているように感じました。

グループで話し合いながら自分のプロダクトを考えました

認知症の方々が最先端ITを使いこなすためには、受け入れやすさや操作性、携帯のしやすさ、ご本人以外による設定など私たちが普段使っている電子機器とは一味違った工夫の必要性を考慮しなければいけません。プレゼンの中には便利だけど現実的に難しそうだなと思う物もあれば、本当にできそうな物もあり、製品化して実際に活用されたらいいなとワクワクしながら見学させていただきました。

感染クラスター8

今回の集中授業では、認知症×A.I.に加えてもうすぐリリースを予定している感染クラスタ−8というカードゲーム型プログラムも体験していただきました。このプログラムは、介護福祉施設における新規感染症クラスターの早期鎮火にむけて、どのタイミングで何をするのが効果的かを学ぶ目的で制作されました。限られた時間と人員の中で、20個のアクションに優先順位をつけて行動し、最終的な施設内の感染者数を6人以下にすることが目標です。ほとんどの生徒さんたちは医療系のバックグラウンドがありましたが、それでもグループごとに選ぶ選択肢やそれに伴う結果は大きく異なりました。新型コロナの際、実際に医療現場がパニックになったように、たくさんのやらなければいけないことの中で何からやっていくのかの順位づけは、医療従事者の方々でも難しい問題のようです。

うまくやらないと感染者がどんどん増えていきます

世界を混乱させた新型コロナは記憶に新しいですが、その時の反省を踏まえてこうしたシミュレーションを事前に行っておくことで、いつ発生するかわからないコロナの再流行や新しい感染症にも落ち着いて行動することができ、結果的な被害を小さく留められるのではないかと思います。カードゲーム形式で楽しみながら、和気あいあいとプログラムに取り組んでいる姿が印象的でした。

みんなで話し合ってどのアクションをするかを決めました

最後に

私自身、今まであまり接点がなかった認知症は、家族や自分が発症したら今までの生活が大きく変わってしまうだろうというネガティブな印象が強くあり、私以外にもそのようなイメージをお持ちの方は多いと思います。認知症の方がとる行動の原因を理解し、全てをやってあげるのではなく自立を促すためのサポートをA.I.が担うことで、ネガティブなイメージが少しでも減り、本人や周囲の人がなるべく今までと変わらず明るい生活がおくれる環境ができていったらいいなと感じました。

また、今回の授業には世界各国からの生徒さんたちが集まり、世界共通の困りごとについてどうすれば改善できるかのアイディアを出し合いました。それぞれ違うバックグラウンド、違うアイデンティティが交錯し、非常に刺激的なワークショップとなりました。世界中の頭脳を持ち寄っても簡単には解決できない認知症や感染症の問題に対してのA.I.の可能性を感じる一方で、斬新かつ革新的なアイディア生み出す難しさも感じた2日間でした。

最後は大きな輪になって感想を(もちろん英語で!)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?