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商標登録は言葉の独占ではないことを「note」商標を例に解説します

 弁理士法人シアラシア 代表の嵐田です。
 「ゆっくり茶番劇」炎上騒動は収束しつつありますが、炎上当時は世間の関心が高く、私宛にも何件か商標に関する質問がありました。一般の方の質問に接して感じたことは、多くの人は商標法を誤解していのではないかということです。
「ゆっくり茶番劇」商標がとられたら他の人は使えなくなるのか?
「ゆっくり茶番劇」という言葉を口にすることもいけないのか?
いや、そもそも「ゆっくり茶番劇」という言葉はみんなのものだから一個人が独占してはいけない!特許庁も弁理士も何をやっているんだ!
 今回の炎上騒動が収まっても、商標法に関する誤解は解消されている訳ではないため、今後も似たような炎上騒動は起こり続けると思います。そんな時のために、「商標は言葉の独占ではない」ことについて解説記事を残しておきます。

1. 商標法の定義

第二条 この法律で「商標」とは、人の知覚によつて認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの(以下「標章」という。)であつて、次に掲げるものをいう。
一 業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの
二 業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの(前号に掲げるものを除く。)

商標法

 商標法では、「文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの」それ自体は「標章」として定義されています。そして標章を業として商品又は役務について使用するものが「商標」として定義されています。文字単体は標章であり、商標ではありません。
 「商標」は「標章」と「指定商品・指定役務」を選択して出願します。「指定商品・指定役務」は第1類から第45類まで区分が分かれており、例えば化粧品なら第3類、お菓子であれば第30類に属します。他人と同じ標章であっても、指定商品又は指定役務が非類似であれば登録になります。各区分にどのような指定商品、指定役務が含まれるかは、類似商品・役務審査基準を見てください。

2. 「note」商標を例に

 「商標は言葉(文字)の独占ではない」ということを例を挙げて説明します。例えばこの記事は「note」で書いていますが、「note(登録6046859)」はnote株式会社の登録商標であり、区分は第38類と第42類です。

登録6046859号

 第42類の指定役務として、「ウェブサイトの作成又は保守、コンピュータサイトのホスティング(ウェブサイト)等」があります。note株式会社は、登録6046859号の商標権があることによって、業としてウェブサイトの作成又は保守を行うために上記のロゴ標章を使用する権利を専有します。

 ところで「note」と聞いて他に思い浮かべる商品・サービスはありますか?そうです。日産ノートです。

 日産自動車株式会社は、「NOTE」の文字について登録4847709号の商標権を取得しており、第12類「自動車並びにその部品及び附属品等」を指定商品としています。
 なぜ同じ「note(NOTE)」という文字について2件の商標権が併存するのかというと、指定商品又は指定役務が非類似だからです。商標には誰の商品・サービスであるかが一目で需要者に伝わる「出所表示機能」があります。「NOTEという自動車を買いにきたのに、間違えてnoteでブログを書いてしまった!」ということはないので、自動車のNOTEとブログサイトのnoteの間で出所混同が生じるおそれはありません。取引者も需要者も混乱しないので、両商標の併存は許されることになります。

3. 「note」商標の全区分の登録状況

 実は「note」商標は私が把握している限りヤマハ株式会社、カンロ株式会社、日産自動車株式会社、note株式会社の4社で計10件あり、全45区分中26区分で商標がとられています。そのうち、第9類、第14類、第21類、第24類、第41類は異なる会社の商標権が併存しています。これは同じ区分でも非類似の指定商品又は指定役務を選んでいるためです。
 2005年10月7日に登録になった日産自動車株式会社の登録4899108は21区分も指定していたので、それ以降の出願人は商標区分選択の幅が狭まってしまっています。それでもnote株式会社は既存商標の隙間をぬって9区分で商標権を取得しています。
 それでもまだ「note」商標には19区分の空きがありますし、先登録商標が指定していない指定商品・指定役務があれば同じ区分でも登録できる余地があります。

4. 「note」商標が登録できない指定商品

 「note」の商標には、誰も登録できない指定商品があります。
 それは第16類の「文房具類(類似群コード25B01)」です。「文房具類」には「ノートブック」が含まれるので、商品「ノートブック」に商標「note」の商標権があると、商標権者以外は「note」という言葉を「ノートブック」に使うことができなくなってしまいます。商品の普通名称は、商標法第3条第1項第1号に違反するため、誰も商標登録することができません。

(商標登録の要件)
第三条 自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。
一 その商品又は役務の普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標

商標法

5. 終わりに

 著名なECサイト「Amazon」は、今でこそネット通販のサイトだと広く認識されていますが、出たての頃は「Amazonで本を買った」というと「南米の熱帯雨林まで行って本を買ったの?笑」と本気で勘違いされることもありました。Amazon社の長年の企業努力により、「Amazon」という言葉には南米の熱帯雨林の他にAmazon社のWebサービスの名称という2つ目の意味があることが需要者に受け入れられるようになりました。上記の「note」の例と共に、商標が商品・サービスとセットで成り立つことを私たちはいくつもの実例で知っているはずなのです。

弁理士法人シアラシア
代表弁理士 嵐田亮

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