★綺麗ごと、

「明けない夜は無い。でも、また夜は来る」
・「自分を信じて。そもそも信じられない」
「空の下で繋がってる。地の上でも繋がってるよ」
・「あきらめないで。なんで続けなきゃいけないの」
「逃げてもいい。逃げるって言い方やだ」
・「無理しないで。無理すら出来ていないよ」
「頑張らないで。頑張れてるの?」
・「やりたいことやればいい。それが出来ない」
「明日はいいことある。そうだといいね」
・「少しずつでいい。もう何年も経ってます」
「生きていればよかったって思える日が来る。そうだといいね」
・「価値のない人間はいない。他の言葉欲しいな」
「死んでいい人間はいない。そうだといいね」
・「努力は報われる。運次第でね」
「人は見ためじゃない。そんな言葉が生まれること自体がおかしくね?」
・「お金より愛。これもおかしくない?みんな何があったの」
「正義は勝つ。正義気取りと見分けつかない」
・「人はみんな平等。んー難しくてわからん」

「えーそれだめ」
 妹が布団を持ち上げて上半身起こした。あーあ負けたか。
「だって、難しいし。…あんただって、「そうだといいね」とか、逃げてんじゃん」
「だって本当にそう思ったんだもん」
「はいはい。てか、スマホ見てるといつまでも寝れないよ?」
「だって調べないと思い浮かばないじゃん」
 妹はまた布団にくるまった。
「こうしてみると綺麗ごと多いね」
 私は妹に言った。こんなにもお互い言い合えるとは思わなかった。
「まだまだあるよ!」
 妹はスマホを見る。暗闇の中光るスマホから妹の真剣な表情が見えた。


「ねえ、なんでみんな綺麗ごとにケチつけたがるのかな?」
 妹の言葉が一瞬わからなかった。
「…これってケチなの?」
「綺麗ごとばかりの歌もあるけど、綺麗ごとを否定する歌の方が人気じゃない?かっこいいみたいな。お姉ちゃんよく聴いてるじゃん」
 またも、一瞬妹が何を言ってるのかわからなかったが、少しなんとなくわかる気がしてきた。
「あー確かに。リアルな歌とかね。でも、結局かっこいい言葉使ってるけどね。例えに空もよく出てくるし」
「あと花とかね!…ふ、はは。お姉ちゃんの言った、かっこいい言葉ってなんだ(笑)」
 何故か妹は笑った。ツボったらしい。
「ちょ、恥ずかしいじゃん。やめてよ」
「今度歌詞あるあるやってみようよ!」
「確かに、面白そう」
 妹の提案に関心した。そう言えば、歌詞あるある歌う芸人さんいたなー。


「ねえお姉ちゃん。なんで「綺麗ごと」って言われるの?」
「え?」
 話がまた戻った。今日の妹は難しいことを言うな~。好奇心ってやつなのかな?
「だってさ、みんな良い言葉じゃん。それに、「綺麗」って褒め言葉じゃん。私も綺麗とか言われたい~★」
 ――最後何言ってんだか。
「うーん。むかつくんじゃないの?嫉妬みたいな?」
「嫉妬?言葉に?」
 妹は私の方に顔を向ける。暗闇に慣れた目が妹の大きな目を見つける。
「わかんないよ。考えたことないし。まぁ、ほら、綺麗なモデルとか見ると嫉妬するじゃん?そんな感じなんじゃないの?」
 なんとか姉として、それらしいことを言ってみたが、無理があるかな?
「綺麗だからモデルになれるんじゃん。嫉妬しないよ」
 まさかの、「お前、私より年上か!?」って発言を妹はしてきた。そう思うのは、あんただけだよ。多分ね。
「じゃあ、あんたはどう思うの?」
「えー、知らない。でも、良い言葉だと思う」
 人生経験が少ないから、そんなピュアなこと言えるんだよって、妹の心を否定したかったけど、やめといた。話が長くなると余計寝れないし。でも、この会話、姉の自分とだからいいけど、友達とこんな話して、友達と価値観違う子にならないといいな。心配だわ…。女は「純粋な女」を敵にするから。KY扱いされるし。


「好きな綺麗ごとあるの?」
 妹に聞いてみた。
「え。なんだろ。ほとんど忘れちゃった(笑)」
「何それ(笑)あたしなんか、調べないで一生懸命思い出したのに(笑)」
 思わずもらい笑いした。 
「んーそしたら、空の下で繋がってるかな!綺麗じゃん!ロマンチック♥」
「えぇ…」  
 いやいや、ほとんどの人はその言葉こそ「綺麗ごと」って言うぞ?とたんに、妹の恋愛も不安になってきた。ロマンチックなことを言う男に騙されそ。
「雨が降ったら、友達のところも雨だし、同じ空だーって(笑)」
 大丈夫か妹よ…。それを素で言えてるところが心配でもあるが、ここまでくるとうらやましい。ピュアだな~。


「お姉ちゃんは?」
「――え」
 まさかの、でも、そうきてもおかしくない展開。
 私?私は…。何も言えなくなった。
「綺麗ごとを否定するかっこいい言葉が好き?」
 私は…。なんだろ。考えたこともなかった。
「そんなに悩む~?」
「ちょ、黙って。考えてるの」
 思わず妹を止めた。好きな綺麗ごと…。なんだろ。本当にそうなら
「…努力は報われるかな?」
 好きというより、願い・思いな気がするけど。
「あー確かに!でもさ、その言葉って本当じゃないの?お姉ちゃん運次第とか言ってたけど、努力すれば願いは叶うもんじゃない?」
「そんな訳ないでしょ」
 思わず苦笑いしてしまった。
「どっちだよ(笑)!そりゃ、みんながみんなは難しいけど、努力してる時って楽しいし、目標に少しは近づけてると思うんだよね」
「確かに努力してる時って、楽しいかも。てか、努力してる自分、かっこいいってならない?」
「ならないよ!お姉ちゃんキモイ(笑)」
 こいつ…。KY宣言してやろうか。
「そろそろ寝るよっ」
 少しイラっとした気持ちを込めて妹に言った。
「え~寝れるかな」
「夜が明ける前に寝ないとね」 
 さりげなく綺麗ごとを混ぜて言ってみたが、思った以上に恥ずかしかった。
「はーい。じゃ、おやすみなさい」
 突っ込みないのかい!ま、いいけどさ。
「おやすみ」
 ピュアな妹は素直に寝れるんだろうな。私は考えてしまう。綺麗ごとって、どうして嫌な言葉に思うんだろ。綺麗ごとを否定するかっこいい言葉も、またひとつの綺麗ごとなんじゃないか。リアルな言葉もまた、綺麗ごとじゃないのか。わからない。妹みたいに、純粋に言葉の意味を受け入れられたら、もう少し自分の生き方とか、性格も変わるかもしれない。
 私はもっと…。
 いいや。寝よう。夜が明ける前に。
 そして、夜は明けていく…


 

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