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【アーティスト・イン・レジデンス報告書】クリスティン・ウォン・ヤップ@大きな台所と診療所のあるところ ほっちのロッヂ

こころのウェルビーイング、帰属・つながり(belonging)、レジリエンスを探求してきたアーティスト/社会実践家(social practitioner)のクリスティン・ウォン・ヤップは、マインドスケープスを開催する各都市(ニューヨーク、ベルリン、ベンガルール、東京)を訪れ、「つながり」や「よろこび」をテーマにしたワークショップを行いました。

滞在期間:2022年9月11日〜18日
受入先:大きな台所と診療所のあるところ ほっちのロッヂ(長野県北佐久郡軽井沢町)

ウォン・ヤップは、首都圏からの移住者が多く歴史的にも東京と関わりの深い軽井沢において、2020年に設立された「ケアの文化拠点」である「ほっちのロッヂ」に受け入れいただき、まちの人たちを招いたワークショップを協働で行いました。

ほっちのロッヂが日々のケアの活動のなかで心がけていることのひとつに「人生会議」があります。これはアドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning、略称ACP)の愛称でもあり、もしもの時に備えて、自分が望む医療やケアについて前もって考えたり、家族や近しい人たち、医療やケアを行う人と何度も一緒に話し合い、思いや考えを共有する取り組みのことだそうです。

ほっちのロッヂは、「人生会議」をより身近なものにすべく、まちにあるカフェなどで地元の人と一緒に話したり考えたりする機会を模索しているところでした。そこで、どのようにウォン・ヤップの行う「つながり」や「よろこび」をテーマにしたワークショップを「人生会議」に接続することができるのか、ほっちのロッヂの文化環境設計士である唐川恵美子さんと、事前にオンラインで打ち合わせを重ねました。

滞在中は、町内のカフェや小学生たちの放課後活動の場のほか、ほっちのロッヂのスタッフともワークショップを行いました。ウォン・ヤップは参加者に10年後の「最高の人生」を想像し、それについて絵や言葉であらわしてみるよう促します。「すべてが良い方向に進んだ場合」の想像です。一瞬、躊躇する人もいますが、少し考えたあと、参加者の多くは、もくもくと作業を始めます。絵を描くのは久しぶり、と言いながら、詳細で楽しげな様子のそれぞれの「10年後」がたくさん出来上がってきます。それぞれが自分の「10年後」を披露したら、つぎにウォン・ヤップは、その「最高の10年後」を実現するための小さな一歩は何かを問いかけます。参加者は、身近に取り組むことができるアイデアー例えば「太陽の下で深呼吸する」とか「大切な人に手紙を書く」などーをそれぞれの方法で描き出し、またみんなでシェアします。

まちのカフェでのワークショップの様子(写真:登久希子)

参加者のなかには、「最高の10年後」を考えながら、いまの自分を振り返り、自分が何を大切にしているのかを再確認することができたと話す人も。また別の参加者からは、楽しいこと、好きなことを集中して考えるおよそ1時間、それ自体がとてもポジティブな気分にさせてくれたという感想がありました。忙しい毎日を送るなかで、少し立ち止まって、自分にとって大切なことを見直す時間、それ自体が貴重だったと言えるでしょう。

今回のワークショップ開催に当たって、参加者にはこれが「人生会議」を目的としている点は明示されていませんでした。しかし結果的に、それぞれの人生にとって何が大切なのかという「人生会議」の本質的な問いに、気負わず向かい合うことができました。

できあがったジン(英語版)

さらにウォン・ヤップは、各都市のワークショップで参加者が描いた「つながり」や「よろこび」についてのアイデアをまとめて都市ごとに4冊のジンをつくりました。英語、ドイツ語、日本語訳があり、ワークショップに参加したひとみんなに配布します。およそ1年後に郵送されてきたジンは小さなギフトのよう。参加者はそこから、他の都市の参加者が描いた、日々をよりよく生きるためのさまざまなアイデアやヒントを知ることができます。文化的なちがいを垣間見ることができるのも、面白いところ。さまざまな国や地域にいる人と簡単にリアルタイムでつながることができるようになって久しいですが、アナログで手作り感あふれる小さな冊子は、そんなつながりをよりリアルな経験に根ざしたものとして感じさせてくれます。

(文:登久希子)


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