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映画『逆光』~光と影が織りなす世界で紡がれる繊細な物語~

今回はkayserが担当します。前回の記事で紹介した映画『ワンダーウォール 劇場版』。脚本を映画『ジョゼと虎と魚たち』NHKテレビ小説『カーネーション』などで知られる渡辺あやが担当し、主演を1500人の応募の中から選ばれた須藤蓮が務めました。

この2人の出会いをきっかけに、新たな映画企画が進行。そうして誕生したのが、映画『逆光』です。この作品で須藤蓮は初監督に挑戦し、脚本を渡辺あやが担当しています。

メインビジュアルを見てから気になっていた本作は、はっきり言ってかなり好みの映画。60分という短尺ながら、満足度では長編に引けを取りません。とうけで、今回はこの映画『逆光』を紹介します。

映画の可能性を感じさせる秀作

映画『逆光』はコロナ禍の中、広島県・尾道市を舞台に撮影が行われました。尾道といえば、映画ファンなら大林宣彦監督作品を思い出す人も多いでしょう。『転校生』『時をかける少女』『さびしんぼう』尾道三部作として広く知られています。

大林監督以外にも、多くの映画監督に愛され続けてきた尾道。そんな映画にゆかりのある土地で、新たな自主映画作品が生まれました

監督は、本作が初監督となる須藤蓮。これまで俳優として数々の作品に関わってきた彼が仲間とともに、映画製作のためのクラウドファンディングを開始。その資金をもとに、映画製作から配給・宣伝まで自分たちの手で全て行っています。

いろいろな意味でチャレンジグなこの作品は、SNSなどで話題となり、現在公開中の東京の劇場では、幾度となく公開延長となってきました。多くの人たちの心を動かし、今なお躍進を続ける映画『逆光』。本作が持つ映画の波は今後どこまで広がっていくのか。映画の新たな可能性を存分に含んだ作品です。

あらすじ

1970年代、広島・尾道。夏休みを利用し、主人公・晃は大学の先輩・吉岡を連れて帰郷します。真夏の尾道を吉岡に案内する晃。海と山と美しい風景以外何もない尾道で吉岡が退屈しないようにと、幼馴染の文江に女の子を誘ってもらい遊びに行くのでした

吉岡へ好意を寄せる晃。晃を心配する文江。文江が連れてきたみーこが気になる吉岡。それぞれの思いを抱えた男女4人が過ごすひと夏の出来事を描いた物語です。

魅力満載!映像美、香り立つ空気感、若者の持つ熱・情愛

映画『逆光』で特に印象に残るひとつにその映像美があります。もともと尾道は非常に魅力的なロケ地です。その尾道の情景をさらに美しく切り取った映像美が堪能できるのが本作です。主張しすぎない抑えた照明も作品の持つ世界観を醸し出しています

また、‘70年代の若者の持つ熱や情愛など、その時代独特の空気感がまるで香り立つに感じられるのが映画『逆光』。晃と吉岡がそこに佇むだけで、どうしてこんなにも刺激的で官能的なのか。決して目を離さずにはいられない魅惑的な作品です。その目で確かめてみてください。

三島の『反貞女大学』

映画『逆光』は1970年代が舞台です。まさにこの時代の若者は、三島由紀夫の作品に大きな影響を受けました。主人公の晃も三島信仰者。吉岡や文江にも三島文学を薦めています。三島由紀夫は多くの小説と同時に、戯曲やエッセイも残していました。

本作にも登場する『不道徳教育講座』は、1958年に週刊明星に連載していたエッセイです。ユーモアに溢れたその作品は、純文学とはひと味違う三島の魅力を味わうことができます。これと同じ系統のエッセイとして、産経新聞に連載されたのが『反貞女大学』既婚女性向けの女性論を展開している作品です。

三島の純文学でない、これらのエッセイを作品に登場させているところがまたにくいところ。本作のテーマとなる愛についても、『反貞女大学』からの引用が使われています。未読の方はぜひおすすめです。読んでからまた映画を鑑賞すれば、より深く共感できるかもしれませんね。

魅力的な俳優陣

映画『逆光』で注目すべきが、素晴らしい俳優陣です。監督兼主演の須藤蓮はもちろんのこと、本作にとって抜群なキャスティングといえるでしょう。

須藤蓮/晃

本作の主人公・晃を演じるのは須藤蓮。1996年生まれ東京都出身。2018年NHK京都制作のドラマ『ワンダーウォール』にて、1500人の応募者の中から主人公に抜擢されました。その後も、映画、ドラマと活躍。本作にて、映画初監督にも挑戦しています。今後の活躍が楽しみな逸材です。

中崎敏/吉岡

晃の大学の先輩で、晃が好意を寄せる吉岡を演じるのは中崎敏。北海道出身。幼少期をハワイで過ごしました。2013年より、ニューヨークフィルムアカデミーに短期留学。2015年より、映画を中心に俳優として多くの作品に出演しています。須藤とは、『ワンダーウォール』にて共演しました。

富山えり子/文江

晃の幼馴染で看護婦の文江を演じるのは富山えり子。福島県出身。女優として活動する傍ら、パーカッショニストとしてバンド活動も続けています。舞台、映画、ドラマと幅広く活躍。本作では、とても重要な役どころの文江を演じている富山。彼女の安定した演技と存在感は本作には欠かせません

木越明/みーこ

晃と文江の同級生のみーこを演じるのは木越明。1999年生まれの東京都出身。モデルとして活躍ながら、音楽、絵、漫画といった創作活動もこなすマルチな才能の持ち主。本作では、パンフレットの制作やダンスの振り付けも担当しました。2022年公開予定の映画『君は脱出ガール』では主演を務めています。独特な世界観を持つ女優のひとりです。

映画『逆光』によせて

映画作品としての魅力だけなく、本作『逆光』にはその製作にいたる部分にも注目すべき点があります。自主製作映画だからこそ、商業映画ではやらないような企画にしたというところです。自分たちが本当に面白いと思う作品を作ったチーム『逆光』。そして、自分たちの手で観客に映画を届ける作業も続けています。

本作で痛感することは「作品に力があれば観客にもきちんと届く」ということ。かつて、筆者も同じような状況を経験したことがあります。その時も同様に感じたのは「作品の持つ力の偉大さ」です。そして、本作に感じるのは、まさにその「偉大な作品力」

映画『逆光』では、作り手の熱量が生み出した作品力に多くの観客が魅了されています。そんな本作が今後どこに向かうのか、またどこまで行けるのか。まだまだ楽しみですね。

kayser

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