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「小さいおうち」の穏やかな日々と秘密の恋!映画『小さいおうち』

2022年。新年一発目にkayserが担当する今回の記事は、映画『小さいおうち』の紹介となります。お正月ということもあり、着物の素敵な映画を観ようと選んだのが、この『小さいおうち』という映画です。

みどころは素敵な着物だけなく、もちろん物語も魅力的。山田洋次監督初のラブストーリーものということもあり、興味津々に鑑賞したところ、年明けからいい作品に出会った次第です。それでは、早速紹介します!

中島京子の描く昭和モダンを山田洋次が映画化!

第143回直木賞受賞作『小さいおうち』。雑誌編集者から作家へと転身した中島京子原作の小説です。この『小さいおうち』に惚れ込み実写映画化したのが、『男はつらいよ』シリーズで知られる山田洋次監督でした。なんと直筆の手紙を書いて中島京子に送ったほどだそう。

数多くの名作を世に送り出している山田監督ですが、意外なことに、ラブストーリー初挑戦だといいます。そんな貴重な映画『小さいおうち』は内外で高く評価され、第64回ベルリン国際映画祭のコンペティション部門にて、黒木華が最優秀女優賞を受賞し話題となりました。

昭和11年、女中のタキは田舎から奉公のため上京します。奉公先は、「赤い三角屋根の小さいおうち」の平井家。物語はその60数年後、自叙伝を書くタキの回想として語られていきます。戦争の影が忍び寄りつつも、平井家での穏やかな暮らしの中である日訪れる「秘密の恋」。タキの死後、女中タキが抱えていた秘密も明らかになるのでしたが......。

昭和初期の人々の暮らしを描きつつ、道ならぬ恋も描いた傑作です。

黒木華×松たか子の競演にシビれる!

若き日のタキを演じるのは黒木華。古風な顔立ちが山田監督の目に留まり、主役を射止めました。この作品はオーデイションで掴み取ったということでしたが、この作品以前にも『舟を編む』『草原の椅子』『ジャニダールの花』などの映画作品に出演。各映画賞にて新人賞を総なめにした期待の新人でした。

タキの奉公先・平井家の妻・時子には松たか子。山田監督とは、2004年の映画『隠し剣 鬼の爪』以来のタッグとなりました。おしゃれでモダンな時子。美人で優しく誰からも愛される女性を松が見事に演じています。恋するが故に生じる時子の感情の起伏。それを演じる松の演技が素晴らしい!

黒木華の控え目な演技。松たか子の華やかで明るい演技。対照的なタキと時子を若手エースと実力派女優が演じる競演というにも本作のみどころのひとつ。この2人の演技、ず~っと観ていられます!

赤い屋根のおうちや着物が素敵!

本作である意味主役ともいうべき「赤い三角屋根の小さいおうち」。原作のイメージ通りの素敵なおうちが映画にも登場します。それは本当に可愛らしく、外観だけなく、内観も素敵です。

また、昭和11年当時の東京の中流家庭の様子も非常によく描かれています。特に、時子の着物は現代においても魅力的です。普段着からお出かけ着まで、細部に渡るこだわりが感じられます。

この物語の重要なポイントとなる帯の時子の「帯」のくだり。その着物と帯の魅力を損なうことなく、物語としての役割も果たしているところなどは、さすがプロの仕事!と思わず感嘆してしまいました。

映画としての魅力

時代としては徐々に戦争の影が忍び寄っているはずのところ、さほど悲惨でもなく穏やかに暮らしている部分が意外と感じる人も多いのでは。この時代でも日常は平和に暮らしていたのだというのが新鮮に描かれています

また、道ならぬ恋が描かれていますが、直接的なことは見せず、徐々に気持ちが通じ合っていったのであろうと想像をさせる展開になっています。観客に委ねている演出が心地よく、さらに想像力を働かせることもできます。

ラストもはっきりとした答えはありません。どういう解釈をするのかは観た人が判断する。多くを語らないことが絶妙に余韻を残しています。いつまでの心に残る珠玉の作品です。

まとめ

さすが山田洋次監督。激しい愛欲に溺れるラブストーリーではありませんが、気持ちが通じていく様を想像するだけでドキドキしてしまいます。多くを語らず、観客に解釈を委ねる。こういった映画作品が少なくなっている昨今、貴重な作品です。年明けから、素敵な映画に出会うことができた2022年幕開けでした。

kayser

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