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ナチスのデザインを解毒する

以前からナチスのデザインは不思議だった。あの力強さと官能性と禍々しさはどこから来るのか。そして、一国のデザインをどうやって短期間であそこまで統一的にできたのか。デザイナーの立場からそれを分析したのが、 松田行正「RED ヒトラーのデザイン」だ。

本著は、ヒトラーをデザイン・ディレクターとしてとらえ、彼が手がけたナチスのさまざまなデザインを分析する。対象となるジャンルは、ハーケンクロイツやポスター、フォントなどのグラフィックから、軍服、戦闘機などのプロダクト、敬礼、行進スタイル、イベントの会場レイアウトまで幅広い。

「design」という単語には「企み」という意味もあるそうだ。「アートは問いであり、デザインは答えである」などとも言う。なるほど、たしかに「企み」を効果的に遂行するためのソリューション(答え)こそがデザインであるとも言える。

本書を読むと、ナチスは「国民の動員」という企みのために、中世のローマ帝国から同時代のファシスト党までさまざまなデザインを引用していることがよくわかる。引用元のデザインがもつ歴史的・文化的な文脈をうまくナチス流にアレンジして、それを繰り返し提示することで、国民意識を高揚させるのだ。図版などを用いながら「元ネタ」を提示して、デザインの裏側にある企みを引きずり出す著者の手つきはお見事。「デザインの歴史探偵」を自任するだけのことはある。

中でもいちばん驚いたのは、ナチスの美的センスの象徴である軍服が、他国の軍服の意匠を組み合わせたものであるという指摘だ。著者は、服のディテールごとに引用元を細かく指摘し、このデザインが節操がない寄せ集めであり、いわば「ぼくのかんがえたさいきょうの軍服」であることを暴き出す。これは、ナチスが「ぼくのかんがえたさいきょうのゲルマン国家」を実現しようとしたことと、パラレルに感じる。

本著の「種明かし」の手法は、プロパガンダやある種のマーケティングへの解毒剤として有効だろう。いまだからこそ読まれるべき本だと思う。

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