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十三話 錯誤

 そのころ浅井ら五人は、日比谷公園に着く寸前だった。
 
 「相手は間違いなくイライラしているぞ(笑)」
 「すでに勝負あったな」
 「しかし、ひー君(浅井宏)、よく思いついたな~。さすが、軍事教練でいつも”優”とってるだけあるわ」
 「ま~なぁ~。軍事教練”だけ”だけどな(照)」

 捕らぬ狸の皮算用とはまさにこのこと。
 浅井らは揃いも揃って大船に乗った気でいた。が、公園の敷地内を進むにつれ、何かがちがうことに気付き始める。
 まず、先に斥候として楡木(にれのき)広場に行った林の姿が見当たらない。
 「林、小便でも行ったかな・・・」
 キョロキョロしているうちに、渋谷少年との待ち合わせ場所である東京市政会館(日比谷公会堂)前に間違えて着いてしまう。
 
 「あれ、誰もいない!?」
 「約束の午後三時をとうにすぎてるけどな・・・」
 「もう帰ったんじゃねぇの?」
 
 あっ・・・。周りを海に囲まれた巌流島ならいざ知らず、日比谷公園ならそれはあり得る。
 ってか、待ってて三十分も来なかったら、普通帰るだろう。
 浅井の策はハナから策の体をなしていないばかりか、「約束を破って逃げた」と見做される行為だった。
 取り返しのつかぬミス、最低級の行為を犯してしまったこと気付く五人。
 頭の鈴木がふと浅井の方を見ると、残り三人の視線も自然と浅井にそそがれた。
 
 このままでは戦ってもないのに戦犯になる。さらに、渋谷の連中が言いふらし、学区を超えて臆病者の烙印を押され、末代まで語り継がれる。
 焦り狂う浅井。市政会館の時計の針の進みがスロウに感じられる。

 「林はどこ行ったんだろうな」
 不意に鈴木がつぶやいた。 
 確かに、渋谷の奴らが帰ったとしても、林は俺たちが来るのを知っている。その林がいないのはおかしい。さらに林は斥候として、渋谷の動向を俺たちに知らせる義務がある。連中が帰りそうなら帰りそうと、俺たちに知らせに来なければいけない。
 浅井は自分で発案した作戦の筋道を今初めて理解した。
 
 「林は何してるんだ?!」
 自分を戦犯扱いしつつあった四人を一応見渡しながら言う。
 
 「未届け人の林がいないの何故だ!」
 「悪いのは自分じゃない、林が全部悪い!」

 浅井は続けてそう叫びたかった。

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