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五十七話 布哇

 太平洋へ出た木っ端船は、北西や舵を切り、やがて布哇ハワイに着いた。到着数日前から、どこかに着くらしいということは、何となくわかったが、何分英語のため聞き取れない。ただ、当日の朝ともなれば、乗客の何人かがアロハシャツに着替えていたので、布哇ハワイだとわかった。
 しかも、給油や荷積み、荷下ろし、メンテナンス等を行うため、半日間下船が可能とのこと。このことは、葛西らにとって好都合だった。
 
 実は、葛西も松井も、カメハメハ大王に強い関心を持っていた。布哇諸島を初めて統一したカメハメハ一世は、一八一〇年布哇王国を建国。その子孫か当人であるプリンス・カメハメは、布哇超人チャンピオンとしてヘビー級のタイトルを九百九十九回も防衛したのち、日本からやって来たキン肉マンことキン肉スグルとノンタイトルで対戦する。わずか七秒でのフォール勝ちするも、スグルに底知れない潜在能力ポティンシャルを感じカメハメは、キン肉バスターなど四十八の殺人技とカメハメ仏壇落としなど五十二の関節技を短期間で伝授した。まさに、キン肉マンの師匠であると同時に、かめはめ波の生みの親でもあった。

 かように馴染みの深いカメハメハ、またはその一族に逢えると、期待に胸を弾ませる葛西、松井。ペルー黄金卿エルドラドのフンコロガシが作ったまがい物ではなく、本物のドラゴンボールを貰えるのではないかと思った。また、その自信もあった。

 しかし、期待は大きく裏切られることとなる。
 一八八九年八月十二日以降、布哇は、すでにアメリカのものになっており、プリンス・カメハメは存在しなかったのだ。

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