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2020年映画ZAKKIちょ~ 26本目 『ミセス・ノイズィ』

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2019年製作/上映時間:106分/日本
劇場公開日:12月4日
鑑賞劇場:TOHOシネマズ日比谷
鑑賞日:12月6日

「騒音おばさん THE MOVIE」?!他人事じゃない!ご近所騒音トラブル・ブラックコメディ!


【あらすじ】

一児の母である小説家一家がマンションに引っ越してきた。だが毎日、早朝、その隣に住む主婦がけたたましく布団を叩く音が聴こえてくるのだった!

 奈良県にて、とある主婦が2002年~2005年の約2年半もの間、CDラジカセからユーロビートやヒップホップ、R&Bなどの音楽を流して騒音を出し続け、近所に住む夫婦を不眠・目眩などで通院させたという実在の事件である、「奈良騒音傷害事件」

「引っ越し~、引っ越し~、さっさと引っ越し~、シバくぞ!」というグルーヴ感満載のリズムで即興で歌いながら布団を叩く主婦の姿は、当時TVでもセンセーショナルなビジュアルで報道され、今でも目に焼き付いている。

当時、この主婦の映像や歌声を素材として使用したリミックス音楽やFlash動画など流行っていてネタとしても強烈なインパクトを誇っていた。

 世間的には、この加害者の主婦が一様に、触るもの皆傷つける純粋な気ちがいおばさんという印象でしかTVで報道されていない。
この事件には下記のような説もある。

・実は加害者側の主婦こそが被害者だったのでは?説

・先に仕掛けてきたのは被害者側で、被害を盛って自作自演してる説


こうしたメディアでは取り上げられないようなことも一方では語られていて、何が本当なのか、何がねつ造なのか、真相は明らかにされていない。

 そうした実在の事件をモチーフに描かれたのが本作。こうした真偽不明の事件は、映画の題材としてはかなりそそられる。
筆者も一時期、この事件ほどではないが、隣人の騒音に悩まされた時期があった。(深夜3~4時に子供が発狂したように叫びだすとか)

そうした意味でまったく他人事ではない、集合住宅における騒音トラブルをどのように描くのか期待しながら、劇場へ足を向けた。

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○良かった点

良かった点は下記2点。

1.激突!おばさん同士の壮絶どっかんバトル!そしてまさかの…
2.現代のネット・メディア風刺としての面白さ

1.激突!おばさん同士の壮絶どっかんバトル!
そしてまさかの…

 上述のように実在の「騒音おばさん」事件を基にした作品ではあるが、筆者の不勉強の為か、対決する2人の主要キャストがどちらも知らない!という状態。
これが逆に奏功し、事前に余計な印象を持たずに楽しめた。

 まず何と言っても、本作一番の強烈なインパクトを放っているのが、“騒音おばさん”こと大高洋子扮する若田美和子だろう。

実際の”騒音おばさん”と比較すると小柄で線が細い印象だが、服装から表情に至るまで、すでになんとな~く陰湿で嫌な感じを出しながら登場し、観る者をなんか嫌な気分にさせていく。

中盤から後半の展開は観てのお楽しみなので詳細は省くが、”騒音おばさん”は序盤の嫌さ加減が充満したイメージから一転し、徐々に別の顔を見せていく。
仕草や表情、動きなどで、いかようにも印象を変えられるって、つくづく役者の仕事って凄いと思う。

大高洋子さんは本作の熱演を足掛かりに今後、バイプレイヤー女優として、映画やドラマなど色んな作品で目にする機会が増えていきそうな気がする。

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 そんな”騒音おばさん”と対峙することになる、スランプ中の小説家であり一児の母である吉岡真紀に扮するのは篠原ゆき子。

序盤は小説家一家が新居に引っ越してきたという視点から描く為、観客は自ずとこの小説家の視点で物語を観ていくことになる。
その中で”騒音おばさん”が登場し、観客はまるで異形の怪物が出てきたような印象を受けるのだが…。

そんな小説家を演じる篠原ゆき子さんだが、パンフ情報によると、次回作がハリウッド映画の『モータル・コンバット』とのこと。
え!あの首や手足が吹っ飛ぶ割と残酷な格闘ゲームの実写化に出演すんの?!!
”騒音おばさん”とのバトルからリアル格闘アクションに?!

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 本作の面白さとしては、小説家と”騒音おばさん”の激しい対峙を見せていき、時にドタバタ喜劇のようなカットで爆笑させながらも、両者の視点からそれぞれの事情を寄り添う形で描く事で、「人間の正しさ」、「他者への想像力」についても教えられ、考えさせられる点である。
監督が「誰かを傷つけることだけはしたくない」という意図のもと、制作された本作。

 特に、後々明かされる”騒音おばさん”の事情については、身につまされる気分にもなるし、それがクライマックスのカタルシスにも繋がっていき、まさかホロッと泣けてしまうとは~!
更に、意外にもシスターフッド作品としての様相も見せてくる。

 誰でも知ってるような知名度のあるキャストが出てこない本作だが、けなげな小説家の娘役を演じた子役の新津ちせちゃんは、4歳から芸能活動を始め、さまざまなTVドラマや映画に出演し、Foorinというグループの一員で、NHK紅白歌合戦に2回出場し、日本レコード大賞受賞者でもあり、なんとあの有名アニメーション監督の娘という、10歳にして超華々しい経歴をお持ちの方だった!

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2.現代のネット・メディア風刺としての面白さ

 ”騒音おばさん”と小説家との対決は、その様子がアップされた動画が広まる事で、意外な方向へ発展する。

 TVのレポーターたちが小説家や”騒音おばさん”の住むマンション前に張り込んで本人からのコメント撮りをするまで群がって近隣住民に迷惑をかけている様子は、昭和の時代から何十年も変わっていない。

 だが2020年の現代である本作は、動画サイトやSNSなどで、情報がもの凄いスピードで拡散されていく。
その浸透度は、15年前のネット文化の比ではないほどの速さで広がり、消費されていく。

 若者を中心に爆発的速度でネットミームと化していく「”騒音おばさん” VS 小説家」。
本作中盤~後半は、TVメディアの変わり映えしない報道合戦の様子や、ネットによる影響力の良い面、悪い面も両方偏らず描いていて、我々が普段目にしている日常を切り取るようにリアルな描写の数々は惹きつけられる。

こうした日本の情報社会の縮図のようなシーンの数々を目の当たりにすることで、本作は強烈なメディア風刺として、コメディともサスペンスとも取れる絶妙なバランスで描かれていて、とても面白い。

この事件を経て、スランプだった小説家は何を残すのか…。
”騒音おばさん”は救われるのか…。
それは劇場でその目で確かめろ!

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◆結論

 以上のように、本作は爆笑させられたり、途中で恐怖を覚えたり、最後は泣けたりと、一本で色々と感情を揺さぶってくる傑作!
教訓として、「他者への想像力」は持っていたいと思わせてくれる。

あ、ひとつだけ言っておくと、「虫」が苦手な人は観ない方がいい!

それでは最後にみんなで予告編を観てみよう。


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