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2020年映画ZAKKIちょ~ 23本目 『とんかつDJアゲ太郎』

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2020年製作/上映時間:100分/G/日本
劇場公開日:10月30日
鑑賞劇場および鑑賞日:TOHOシネマズ日比谷(1回目 11月1日)、丸の内ピカデリー(2回目 11月7日)

豚もバイブスもアゲる!観たらDJがやりたくなり、とんかつが食べたくなる青春音楽ドラマ

【あらすじ】
渋谷の老舗とんかつ屋の3代目・アゲ太郎は、配達に行ったクラブでDJのカッコ良さに目覚め、豚肉もフロアもアゲられる「とんかつDJ」 になることを決意する!

 「とんかつ屋」と「DJ」という異色の組み合わせで、テレビアニメ化もされた人気ギャグ漫画を実写映画化。

その陽気な内容の原作とは裏腹に、もともと6月公開予定だったのが某ウイルスのせいで公開延期となったり、出演者陣が大麻使用やひき逃げで逮捕されたりと、公開前から大きな味噌が付いてしまった本作。
「やくぶつDJキメ太郎」とか「ひきにげDJアテ太郎」とか陰で言われていたとかいないとか。

各ネット媒体などからも、「初日の上映回にわずか数人の客入り」など、本作に対するネガティヴな記事が書かれている中、「さりとて結局、大事なのは中身だ!」とこじれすぎたアマノジャク精神の血が騒ぎ、勢い勇んで劇場へ足を向けた。

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○良かった点

良かった点は下記3点。

1.何度でも観返したくなる!やさしい世界の青春音楽ドラマ
2.思わず耳を疑いたくなる!超豪華な洋楽を集めた充実のプレイリスト!
3.観たら絶対食べたくなる!画と音で魅力を伝える見事なとんかつ描写

1.何度でも観返したくなる!やさしい世界の青春音楽ドラマ

 まず、本作を観終わって思ったこと。
「うおおおお!DJやりてええ!とんかつ食いてええ!!!」

本作の重要な2大テーマの「DJ」「とんかつ」の描写が、それだけ説得力を持ってスクリーンで映えていたからこその正直な感想である。

この2大テーマについては項目を分けて後述することにして、まずは本作が青春音楽ドラマとして、どれだけ優れていたかについて述べたい。

 観終わった直後に連想した作品は、筆者が2016年のベスト1映画に選出したほど大好きなアイルランドの音楽映画の大傑作「シング・ストリート 未来へのうた」だった。
80年代なかばのアイルランドで、両親の不仲に悩む若い男子がふとしたきっかけでロックバンドを組み、色々な音楽や人に影響されながら成長していく話。

DJとバンドという音楽スタイルは違えど、「うだつの上がらなかった若者が女の子をきっかけに音楽と出会って成長していく」という意味では合致していた。
これは筆者としては好きにならずにいられない。

 まず、冒頭の渋谷の街の空撮から始まり、街中の豚のイメージ映像をテンポ良いカット割りで見せ、ジューシーな音を立てながら油の海に落とされるとんかつの映像が映し出されるオープニングからして、ワクワクさせる。

 さらに新鮮だったのは、本作に映し出されるオール渋谷ロケの中、そのカットのどれもが、都会感というより、まるで下町の映像を観ているようなリアルな親近感があったこと。

主人公であるとんかつ屋「しぶかつ」三代目候補であるアゲ太郎ほか、近所のお店それぞれの三代目の友達でつるむ5人組「三代目道玄坂ブラザーズ」の雰囲気が、典型的な渋谷にたむろす若者像ではなく、渋谷で生まれ育った生活感を感じさせる。
序盤で、「あぁもうこいつら好き!仲間に入りたい!」となってしまっていた。

下画像のようなとんかつの被り物とか、ひとりでは絶対やらない事も、心の許せるヴァイヴスの合う友達が集まったらノリでやっちゃうんだろうな~。

ちなみに下画像をご覧の通り、今では各媒体で大ブレイク中のYoutuberのフワちゃんも、本作撮影時ではまだ話題になっていなかったこともあり、快く撮影に協力してもらえたと、監督がインスタライブで語っていた。

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 本作に登場するキャラクター達は皆、気が良い人たちばかりで、終始「やさしい世界」であることが、何度も観返したくなる理由のひとつである。

アゲ太郎がDJとして初めてのイベントで失敗してしまうシーンで、イベンターのおっさん(川瀬陽太)が怒鳴り散らす描写があるぐらいで、それ以外は、ホントにいつまでも浸っていたくなる、ぬるま湯的にやさしい世界観が心地よい。
さりとて、偽善的なきれい事とかお涙頂戴的な、邦画にありがちな冗長で無駄で説明過剰でしゃらくさいカットが無いのも良い。

「DJ」と「とんかつ」の魅力を、説明台詞などは少なく、いかに映画的な演出でスクリーン映えさせていくかの心地よさもあった。

 原作がギャグ漫画だけに、本作のメインビジュアルから察すると、完全にコメディ映画的なイメージが先行してしまうが、その実、コメディ要素よりも、それ以上に青春音楽ドラマとしての完成度の高さが際立っていた。

 他にも、アゲ太郎ほか三代目道玄坂ブラザーズや、ヒロインの苑子など若いキャラクター達がメインで活躍するなかで、アゲ太郎にとって、厳しくも心優しい父親であるブラザー・トム演じる「しぶかつ」の二代目店主が、二代目の旅館の店主とお店が終わった後に飲みながら2人で気を許した会話をするカットが意外とグッとくるものがあった。

三代目のように、二代目もこの渋谷で生まれ育って、若い頃は仲間たちと馬鹿な事やってたんだろうな〜とか、想像の余韻を残してくれる。

こうした細かいカットを挿む事で、脇を支えるアゲ太郎の親父のキャラクターの深みがより増しているのは本当に良い。

 また、本作では、DJを経験したことのある人間なら分かる、観ているこっちも青ざめるようなシーンがある。
それは、アゲ太郎が初めてクラブイベントでDJとして登板した時に、三代目道玄坂ブラザーズと内輪ノリの選曲で振り付けをキメて盛り上がってしまい、何も知らない周りの客がドン引きしてしまうだけでなく、アゲ太郎がふとした事で思わず自分のDJの音を止めてしまうシーン。

筆者も十数年前に小規模のDJイベントで何度かDJをやった事があるが、こういうフロアの雰囲気を読まず、個人の好みで突っ走ると失敗するというパターン、ホントによく分かり過ぎる。
本来なら、フロアにいるお客さんの傾向を把握して、臨機応変に選曲を変えていくのもDJの仕事。
最初から挫折するアゲ太郎のDJからの、クライマックスの「とんかつアンセム」のカタルシスは鳥肌が立つ。

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2.思わず耳を疑いたくなる!超豪華な洋楽を集めた充実のプレイリスト!

 まずは下記の通り劇中で使用される、驚愕の洋楽プレイリストを見てくれ!(各曲、Youtube動画リンク付き)

「Runaway Baby」/ Bruno Mars
「Heaven Is a Place on Earth」/ Belinda Carlisle
「D.A.N.C.E」/ Justice
「Gonna Make You Sweat(Everybody Dance Now)」/ C+C Music Factory
「Sugar」/ Maroon5
「My Sharona」/ The Knack

「Star Guitar」/ The Chemical Brothers
「Higher」/ The Naked And Famous
「Apache」/ Incredible Bongo Band
「Ghetto Kraviz - Original Mix」/ Nina Kraviz
「I Believe In Miracles - Extended Version」/ Jackson Sisters

どメジャーなアーティストだけでなく、DJシーンにバチっとハマったノレる曲まで多数!

アゲ太郎が初めてDJプレイするシーンでかかるのが、ザ・ナックの「マイ・シャローナ」で驚く!(フジロックで本物観たっけな~)

これだけの使用楽曲数は邦画としては史上最多と言って間違いない。
楽曲使用の権利を獲得するのに、どれだけの苦労があったか、そういうところもかなり興味がある。

 本作はDJという題材を描くうえで、漫画では難しかった、実写版として実際に耳で聴こえる、鳴らされる音楽の選曲は本作の制作のうえで最も困難を極めたというプロデューサーの話がパンフに書かれている。

更に、実際のDJだったら、楽曲をいくつか組み合わせるなどしていかに再構築してその場限りの空間を作るかというのも、DJプレイにおけるスキルの見せどころだが、使用権利を得られた洋楽では、無許可のアレンジは不可能という制約もあったと、監督がインスタライブで話していた。
それでも、上記の洋楽の使用楽曲数は邦画ではちょっと聞いた事が無い。
そういう点でも、本作は注目に値する作品である。

 更に本作は上記の楽曲と同時に流しても違和感に無いようなオリジナル楽曲ほかサウンドトラック音源も制作されている。
オリジナル楽曲だったらDJプレイシーンでのアレンジやリミックスなど再構築も出来るし、どうしても必要だったんだろう。

オリジナル楽曲で、本作のクライマックスであるアゲ太郎のDJシーンのハイライトとなる「とんかつアンセム」は特に大きなインパクトを与えている。

キャベツを切る、卵をかき混ぜる、かつを揚げる音をDJ用サンプラーマシンで鳴らし、グルーヴィーなビートを叩き込みながら、三代目道玄坂ブラザーズそれぞれマイクパスによるラップが入る、6分にも及ぶ楽曲。
「とんかつを揚げる」ことと「DJをプレイする」ことを完全に同化させ溶け込ませた名曲である。

この曲が流れることによるカタルシスは、前述の「シング・ストリート」の、ラストのバンドのライブで流れる「Brown Shoes」のイントロの鳥肌が立つ高揚感に酷似している。

 ほかに、アゲ太郎のDJの師匠となる、DJオイリー(伊勢谷友介)の魂の一曲という設定で、ソウルフルで踊れるインストナンバーである「Juicy & Crispy」も本作のオリジナル楽曲である。

本作は残念ながらサウンドトラックはフィジカルで販売されていないが、上記の使用楽曲とオリジナル楽曲はまとめてSpotifyなど、サブスクでプレイリストとして聴く事が可能。
洋楽コンピとしても聴いてて楽しくて、つい何度もリピートしてしまう。

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3.観たら絶対食べたくなる!画と音で魅力を伝える見事なとんかつ描写

 本作のもうひとつの大きな魅力、それは「とんかつ」描写。
最近「映画におけるフード理論」が取り沙汰されたりしているが、そういう題材で語られる際に、本作は絶対に外せない作品である。

とんかつを作り上げる行程をこと細かく手際よくスピーディーに見せていき、パチパチとした音を上げ、揚げられていく。
いかに「とんかつを美味しそうに見せるか」というのも本作の課題のひとつだったとのこと。
九州の老舗とんかつ屋の協力のもと、「お肉の中心部がピンクの柔らかくジューシーでありながら、衣も剣立ちがしっかりとした黄金色のとんかつを目指し、研究に研究を重ねた」というほどの気合の入れ様。

 そうした制作陣の気合は、スクリーンからも伝わってくる。
まるで今年の大傑作の一本である韓国映画「エクストリーム・ジョブ」における、観ていてよだれが止まらない“フライドチキン描写”を彷彿させる。

「エクストリーム・ジョブ」を観終わった後で、さんざん爆笑してお腹も減りに減った状態で劇場を出て、居ても立ってもいられず、とにかくフライドチキンが食える店を探したことも記憶に新しい。

 本作も同様に、劇場を出てから最初にした事が、GoToとんかつ屋探しだった。
全国チェーン店の「かつや」だったら、いつもカツカレーを食べているから除外して、もう少し個人経営でやっているようなところを探してしまった。

ちなみに劇中の「しぶかつ」店内の壁の張り紙に書かれていたが、ロースかつ定食が1,000円だった。個人経営にしては安い。回転率を上げないとやってけない気がする。だからお店はいつも行列しているのだろうか。

なお、下画像は実際に映画を観終わった後に入った、某とんかつ屋のロースかつ定食を激写したものである。
外サックサク、中じゅわっとしてて、んまかった~♪

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◆結論

 公開前に主要キャストが2人逮捕された件により、ネガティヴな報道を流すネット記事やテレビ媒体の影響で、本来もっと多くの人が本作を観るはずだった、その可能性を奪われてしまったことは事実だと思う。

ただ、その件と本作自体の質はまったく関係ない。
別にアマノジャク精神で言っているのではなく、実際に目の当たりにして、その中身はエンタメ作品として非常に細かいところまで練られて丹精込めて作られた、とんでもなく高いクオリティだった。

観終わって「あ~面白い映画観た~!」と胸がスカッとするし、さらに観てたら腹が減ったからとんかつ食いたくなるし、という相乗効果を生む。
(本作は出来たら空腹状態で観に行った方がいいかも)

ハッキリ言って今のところ筆者にとって、5本の指に入るくらいの2020年ベストの実写邦画作品だった。

それでは最後にみんなで予告編を観てみよう。

©2020イーピャオ・小山ゆうじろう/集英社・映画「とんかつDJアゲ太郎」製作委員会

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