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2020年映画ZAKKIちょ~ 18本目 『悪人伝』

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2019年製作/上映時間:110分/G/韓国
原題:The Gangster, the Cop, the Devil
劇場公開日:2020年7月17日
鑑賞劇場:TOHOシネマズ六本木ヒルズ、シネマート新宿
鑑賞日:六本木 2019年11月2日、新宿 2020年7月18日

憎き殺人鬼をつかまえろ!共闘する巨体ヤクザと暴力デカの熾烈な捕獲作戦!

 今や名実ともに、飛ぶ鳥を張り手で叩き落とす勢いの韓国トップマッチョスターことマ・ドンソクが極悪組長を演じる暴力アクション。

【あらすじ】
ある夜、何者かにメッタ刺しにされたヤクザの組長ドンスが、チョン刑事とタッグを組み、自らを襲撃した人物を追い詰めていく!

 マ・ドンソクといえば、熊のような巨体とコワモテな見た目の反面、義理堅く心優しくて憎めない性格のキャラクターを演じさせたら現在、右に出る者はいない。
だが、日本でも注目されるきっかけとなった「新 感染 ファイナル・エクスプレス」以降、正直、似たようなキャラの作品が続いていて、そろそろ食傷感を覚え始めていたところだった。

そんな中で、ドンソク兄貴が極悪やくざを演じる本作は、あらすじだけでも血がたぎるような内容で、勢い勇んで劇場へ足を向けた。
(昨年11月2日、「シン・ファンタ/復活!?東京国際ファンタスティック映画祭ナイト」の上映作の1本として一般公開前に鑑賞)

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○良かった点

良かった点は下記2点。

1.男たちのしのぎを削る熱いぶつかり合い
2.韓国バイオレンスの総決算!

1.男たちのしのぎを削る熱いぶつかり合い

 「ヤクザと刑事が共闘して殺人鬼を追う」というあらすじの単純明快さと場面写真の熱量の高さから既に面白さは保証されていたようなものだったが、実際に観て、その期待に応えてくれるような内容の作品であった。

そんな不良性感度ビンビンな本作において、スクリーンに映るのは血と汗と飛沫が飛び交う男たちの武骨なツラ・つら・面!
まるでこのうだるような暑い夏の中でサウナに入っているかのような熱さ。
女優さんは、ほんのおまけ程度に一人いるぐらい。

 あと、警察とヤクザたちが居酒屋を貸し切って、悪態をつき合いながら打ち上げするシーンは最高。

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 主人公であるマ・ドンソクことドンス組長は、初登場のシーンでジムのようなところでサンドバッグをパンチングして、筋肉の鍛錬に余念が無いかと思いきや、実は中身は…!

その他にも、ライバルの組長の子分の歯を手で抜くなど、ヤクザ同士だからか血も涙もない暴力性をむきだしにする。
自分の商売に邪魔な存在は容赦なく消す冷酷さも持っていて、これまでのドンソク映画とはひと味違うと思い知らされる。

 そんな親分としての恐ろしさを知らしめているからこそ、ヤクザとして飯が食えているのに、車を運転しててオカマを掘られた上に、降りた途端にどこの馬の骨か分からない人間にメッタ刺しされたら、ヤクザは一度舐められたらオマンマ食えないってことで、必死にその刺した男を追わなきゃいけないっていう冒頭のくだりからワクワクさせる。

 ヤクザ相手だと血も涙もないドンス組長だが、堅気の人間には温厚というのも、マ・ドンソクのキャラクター性と相まっていてホッコリする。
雨が降るバス停で、傘を忘れた女学生に傘をあげる優しさもさすが!
しかしまさかそのあげた傘があんな展開に繋がるなんて…。

 これまでのマ・ドンソク映画の例に漏れず、一切武器は使わない完全ステゴロスタイルは健在。おのれの拳による張り手とパンチだけで十分という説得力は相変わらず凄いし、もはや銃とか鈍器とか持ち出したら違和感すら感じる。

 さらにインタビューで「拳で思いっきり殴ると、危険すぎる。誰かを黙らせたい時は張り手を使えばおしまい。殺す必要は無い」と語っているのも、リアルな筋モンの発言ぽくて恐ろしい。

  そして最後の最後に遠山の金さんばりに披露される、ドンソク兄貴の全身の入れ墨(最上部画像)の見事さ!
やはりもうリアルな筋モンにしか見えないインパクトで呆然とする。

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 個性が強すぎるドンス組長とタッグを組むのは、署内でもルール無視で強引な荒くれ捜査を続ける、キム・ムヨル演じるチョン・テソク刑事。
なんと、チョン刑事を演じるにあたり、15Kgの増量を図って屈強な肉体改造をしたというキムさん。

インタビューで「視覚的にマ・ドンソクと対抗できる人物に見せる為に説得力を持たせたかった」と語っているが、そりゃあ熊みたいな巨体のヤクザとバディになるんだから、対峙しても違和感無いように仕上げてこなきゃ不釣り合いだ。
更にスタントも自分でこなすなど、ストイックな姿勢に真面目さが伺える。

 ドンス組長と手を組むのか組まないのかの、言質の証拠をICレコーダーに録音されたシーンはコメディ的で笑える。

 本作がマ・ドンソクだけが目立つワンマン映画に陥らなかったのは、そうした他のキャストのキャラクター性の濃さによるバランス感あってこそ。

あまりにもマ・ドンソクの個性が強すぎるせいで、それに拮抗できる存在を立てる事と面白い脚本を作る事が今後のマ・ドンソク映画の命題だと思っていただけに、本作はまさにそれを具現化しているかのよう。

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 巨体ヤクザと暴力刑事という個性の強い2人に追われる羽目になる殺人鬼をキム・ソンギュが演じる。この手の韓国映画特有のじめっと湿り気のあるスリラー的要素を煮しめた不気味な演技が良かった。

この殺人鬼、過去に父親との確執があるからなのか、ターゲットにするのはおっさんばかりというのも珍しい。

たいがいこういう常習性のある殺人鬼のターゲットとしたら、女性や子供など抵抗できない相手を選ぶのがパターンだろうに、この殺人鬼は、まず車で前の車のオカマを掘り、車を止めさせて出てきたところを背後から襲うという手順をわざわざ踏んでいる。

しかし、おっさんばかり意図的に狙っているかと思えば、たまたま居合わせた人が被害に遭うなど、とにかく殺人衝動が抑えられないという、なかなかの気ちがいっぷり。
もはや、ちょっと漫画的ですらある、観客からは共感不可の狂気を見せてくれる。

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2.韓国バイオレンスの総決算!

 本作は、『チェイサー』、『哀しき獣』、『悪魔を見た』、『アシュラ』などの2000年代~2010年代の名だたる韓国バイオレンス映画の暴力性、テンポ感、キャラクター性、印象的なカットなど、おいしいところを抜き取って、最新リアレンジしたかのような作品である。

目を背けるような過激な暴力描写は直接見せていないのだが(だから映倫審査では全年齢対象!)、前述の作品群を想起させるようなシーンがいくつも出てくるところから、確実にそれらの流れを汲んでいると推測できる。

それでいて、前述の作品群につきまとっていたような、じめっとした雰囲気は感じられず、熱量の高さが際立って感じ取れる。

 それにしても、ここ数年あまりにも過激な暴力描写の韓国映画は作られなくなっているような気がする。
2010年代前半にそういった暴力映画が大量生産され続けて飽和状態になってしまったのかもしれない。

 本作は、マ・ドンソクが映画界に入るきっかけとなったシルベスター・スタローンの製作スタジオで、本人が再度主演によるハリウッドリメイクが決まっているとの事。
同じ話を同じ人がもう一度演じたらどうなるのか、その変化を楽しみに待ちたい。

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◆結論

 ここ日本でもますます注目度を上げている、ラブリーマッチョスターことマ・ドンソクの新たな代表作となった、暴力描写キツそうでキツくない少しキツい本作。
ワクワク感満載のラストカットに胸が透く気分になることだろう。

 今後、出演予定のマーベル映画「エターナルズ」を経て、北米作品でも多く見かける機会が増えるかもしれない。
そんな期待感も込めて、これからも熱い張り手をスクリーンで観られることに期待。

 余談だが、ドンソク兄貴の渾身の張り手をかましてもらいたい相手は、日本にもたくさんいる。

 それでは最後にみんなで予告編を観てみよう。


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