夜のお散歩とにびいろの空

梅雨入りして、雨と曇り空の蒸し暑い日がしばらく続きそうですね。

この時期は暑い時間帯を避けて、雨が止んでいる隙に犬のお散歩に行くので夜のお散歩が増えます。真夏も早朝か、暑さがキビシイ時期には夜のみお散歩に行くようにしています。

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先日、ヨガのレッスンから帰って来て、雨も止んでいたので、夜の犬のお散歩に行くことにした。

Tシャツに短パン&レギンスというヨガの服装は、レギンスのままだと暑いので、下の服だけパッと着替えて、雨が止んでいるお散歩チャンスのうちに、すぐさま出掛けることにした。

夫を誘ってみたが、蒸し暑い気候の影響か、体が重だるくて今日はもう動きたくないとの返答で、1人で行くことにした。ちなみに我が家では、幼い頃は息子と一緒に犬の散歩に行ったりもしたが、年頃になってからは、息子の気持ちを配慮して一緒に行くことは無い。

街灯が灯る暗がりの中、フンフンフン♪と嬉しそうに歩く彼(うちの犬は男の子)の後ろ姿を眺めながら、1人と1匹水入らずで、夜のしじまのお散歩を楽しんだ。

お散歩を終えて、マンションのエレベーターホールで彼のコトを抱っこしながら、エレベーターが1階まで降りてくるのを待っていた。

するとそこへ、もう夜の10時を回っていたが、塾帰りであろう中学生の女の子たちがドヤドヤとやって来た。女の子は5人居て、そのうち初めに来た2人組は、どんよりと重く沈んだような、それでいてピリピリとした空気を湛えていた。

スマホに向けられた目は虚ろでジメッとした鋭さがあり、私に抱っこされている愛らしい彼の姿は、視界に入っても景色と同化して、何も感じることはないのだろうなと思った。5人のうち2人は、同じ階に住む息子と同級生の、比較的おとなしめの女の子たちだった。

この時点で、一緒にエレベーターに乗らない方がいいんじゃねえかアラームが、私の中でうっすらと鳴り響いていた。エレベーターは3台あるので、先に着いたエレベーターを見送ることも考えた。しかし、先に待っていて露骨に乗らないのも気が引けたので、また、考えすぎかなと思い直し、最初にエレベーターに乗り込んで、自宅がある階のボタンを押し、ジャマにならないようすぐに奥へと進んだ。

どんよりピリピリ2人組は、自分たちの行先階を押して、後から乗り込む女の子たちのことにはまったくお構いなしに、スマホをいじったままだった。開くボタンが押されず、エレベーターの扉が閉じかけるのを見て、私はヒヤッとした。

後ろで待っていた女の子のうち1人が、閉まりそうになった扉を手で押さえて、残りの3人が乗り込んできた。しかも、奥に私が居るとはいえ、エレベーターは長細く奥行がそこそこあるというのに、どんピリ2人組は、真ん中の中途半端な位置で、スマホをいじりながら立ち止まってしまったため、後から乗り込んで来た女の子たちは、扉の前でムダにぎゅうぎゅう状態になった。

エレベーターが止まって開き、一人の女の子が降りて、

「バイバーイ」

と言うと、どんピリ2人組も他の女の子たちも

「バイバーイ」

と塾帰りで疲れているのか、気だるい感じで挨拶を交わした。

次が私の行先階で、すぐにエレベーターは止まり、降りるため前に進もうとしたが、どんピリ2人組が横並びで壁のように立ちはだかり、歩くスペースが無かった。前に居た女の子たちが先に降りると、私は少し焦って

「すみません」

と固い声で言い放ち、彼のコトを抱いていたので、どんピリ2人組の間を肩で押しのけて(押しのけても元の位置から動こうとしない)、何とかエレベーターを降りることができた。

降りた後、私は思わず目を三角にしながら、どんピリ2人組のことを振り返った。どんピリ2人組は「ギザギザハートの子守唄」を彷彿とさせる、鋭い目つきで私のことを睨んでいた。そのあまりにも見事な思春期全開の逆ギレッぷりに、私は驚いて呆気に取られてしまった。

豆腐メンタルな私は、家に帰り着くなり、

「やっぱり1人でお散歩に行くんじゃなかったー。○○(息子の名前)の同級生にイジメられたー!」

と夫と息子に、八つ当たり気味におもいっきり嘆いた。

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どんピリ2人組は、もともと周りを気にしないタイプなんだろうなと思った。なぜなら、そういう感じの大人もたくさん居るからだ。ただ、塾帰りで疲れているのもあっただろうけれど、「触るものみな傷つけた~」的な、思春期ならではのコントロールが利かないむき出し感がものすごかったので、きっと色んな所で振りまいているんだろうなと思うと、やりきれない気持ちになった。そして、

(あんな状態で家に帰っても、安らげてるんやろうか)

と余計なお世話とわかりつつ、お母さんキャラが発動して心配になってしまった。

大体、その日は息子の期末テストが終わったばかりの日だった。テストが終わった息子は塾も休みで、誕生日プレゼントとして、その日に購入したゲームを家でエンジョイし、勉強疲れをリフレッシュしていた。

私がエレベーターで出会った女の子たちと、家で楽しそうに過ごす息子があまりにも対照的だったので、

(彼女たちも期末テストが終わったばかりで、受験生でもないのに、その日に夜遅くまで塾で勉強せなあかんのやろうか)

と考えずにはいられず、あの虚ろでジメッとした鋭い目を思い出しながら、私の心は梅雨のにびいろの空のようになっていった。願わくば、もう二度と一緒にエレベーターに乗り合わせたくはないものだ、と思いながら。

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