第70回:思い出し笑い「天国からの贈り物」(&ツルコ)
執筆者:&ツルコ
第70回:天国からの贈り物
*intoxicate vol.125(2016年12月発行)掲載
なんとびっくり! 十年以上前、新宿末廣亭に小沢昭一が10日間出演したことがあったのですが、その音源が登場です! なぜ今?? 生誕、没後など特に節目ではなさそうですが。そういうことがあったと思い出すと同時に行けなかった残念さが甦ります。そうでなくても人気の柳家小三治がトリを務める番組に小沢昭一が出演というので、それはそれは話題になりました。末廣
亭は連日満員札止めで、入りたくても入れない。いつ行っても入れる寄席が、この10日間は立ち見でも入れない状況でした。小沢昭一はそれまでにも企画の会で末廣亭に特別出演したことはありましたが、俳句仲間の小三治から、寄席は10日間続けて出ないと本当の寄席にはならない、ともちかけられ、2005年6月の下席に芸人と同じく10日間出演、出演料も「割」とよばれる給金で、という出演が実現しました。トリの前に高座に上がる色物を「ヒザ」といい、その前に上がることを「ヒザ前」といいますが、当時76歳の小沢昭一はヒザ前で、落語ではなく随談で10日間務めました。このときの高座は翌年、『小沢昭一的新宿末廣亭十夜』(講談社)として、第一夜から第十夜まで連日の語りや歌の歌詞すべてを書き起こしたものが書籍化されています。
末廣亭での小沢昭一的十夜は、若い日の思い出や、関わりのあった芸人たちの話、流行歌の話などを歌を交えて語るもので、高座には三味線によるラジオ「小沢昭一的こころ」のテーマ曲を出囃子に登場し、最後はハーモニカで1曲披露して高座を降りる。毎日違う内容でお客を楽しませたのですが、今回音源を聴いて、文字だけでは伝わらない、語り口のしみじみとしたおかしさ、満員御礼の客席からの拍手の大きさ、話芸に引き込まれての笑い声など、リアルな会場の雰囲気を実感できました。CD化されたのは三夜分ですが、第七夜「流行歌のルーツ」では《ノンキ節》《パイノパイノパイ》などを楽しそうに歌い、一番好きな歌だという《金々節》を7分近くかけて披露。第八夜「米朝和解」は、若い頃から交流のあった桂米朝の話をしつつ、チャルメラの笛を吹いたりも! 米朝とチャルメラの関係が気になる人はぜひ聴いてみてください。第十夜「旅の夜風」では、幼い頃に聴いたレコードの話から、浪花節や流行歌の話になり「清水次郎長伝」や「阿呆陀羅経」などを気持ちよさそうに披露し、お客さん大喜び! 小沢昭一は学生の頃から末
廣亭に通い、正岡容が主宰した「末廣会」にも参加、楽屋に出入りして桂文楽に頭をなでてもらったこともあるほどですから、半世紀を経てそんな場所の高座に芸人として上がることができたというのは、さぞうれしかったと思いますので、連日楽しみに通った客にとっても小沢昭一にとっても至福の10日間だったことでしょう。ぜひ残りの七夜も発掘してほしいものです。
さらに小沢昭一絡みで、談志ファンにうれしいお宝音源も登場! こちらは談志生誕80周年ということで、小沢昭一が構成・編集を手がけて1980年にLP 2枚組で発売された「ドキュメント立川談志」の初CD化です。
DISC1は、池袋演芸場での呼び込みから始まり、「ピー音必要では?」くらいセキララな寄席楽屋での馬鹿話、自宅で友人たちと過去の録音を聴きながらのおしゃべり、高座の音源から街頭での選挙応援演説など、談志を追っていろいろな場所で録音された音源が、小沢昭一によってコラージュのように組み合わされたユニークな「談志の世界」と、78年の高座で「今年の十大
ニュース」の漫談を収録。DISC2は、談志が弟子に「野ざらし」の稽古をつけている様子を録音したもので、一般の人は触れることのできない稽古風景を聴ける貴重な音源と、「居残り佐平次」の高座。まだ落語協会に在籍していた時代、40代の談志の記録です。
「CD版小沢昭一的新宿末廣亭特選三夜」のライナーで末廣亭席亭が、この音源は天国の小沢昭一さんからの粋な贈り物かも、と語っていらっしゃいますが、「新宿末廣亭特選三夜」、「ドキュメント立川談志」ともに、天国の小沢昭一が残してくれた贈り物、です!