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第19回:思い出し笑い「ちりとてちん」(&ツルコ)

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執筆者:&ツルコ

第19回:ちりとてちん

*intoxicate vol.72(2008年2月発行)掲載

NHKの朝ドラ「ちりとてちん」が評判いいみたいですね。今回の主人公は、落語家を目指す女の子。大阪は“天満天神繁盛亭”という寄席もでき、落語が注目されてるタイミングですから、まさに追い風って感じで盛り上がってるんでしょうか。


いま、女性の噺家は数こそ少ないですが、東西の落語界で活躍してます。初めて女性噺家となったのは、70年代に上方落語の露の五郎兵衛に入門した露の都さん。落語界は女人禁制ではないですが、ずっと男社会でしたし、古典落語も男性が演じるようにつくられてますから、女性がそこに入るというのはなにかととまどわれたことだろうと思います。


東のほうでは90年代になって初の女性の真打ちが誕生したんですね。それまでにも入門した女性はいましたが、真打ちになる前の前座や二つ目の段階で離れてしまっていたので、平成になって2人の女性真打ちが誕生したことは、江戸落語史上初めてのことで大変話題になりました。そのお2人は三遊亭円歌門下の歌る多さん、古今亭円菊門下の菊千代さんですが、女性の弟子入りを認めて育ててくれた師匠がすばらしいのはもちろん、そこで初めての道を修行してつくっていったお2人はほんとうに大変だっただろうと想像されます。ほら、ちょうど雇用機会均等法ができて、女性が男性と同じ立場で働けるようになったことと似てるかも。自分たちのことだけではなく、後に続く女性たちのことも視野にいれて進まなければならなかったんですよね。受け入れる社会(会社)の側も、働く側も、みんなが試行錯誤していったのと同じような状況が落語界にもあったのではないかと。お2人があきらめずに道をつけてくれたおかげもあって、女性の入門はその後も続いてます。林
家木久扇門下のきく姫さん、故・桂文治門下の右団治さんほか、東西合わせると30人ほど。今では歌る多さんには歌る美さん、菊千代さんにはちよりんさんという、女性のお弟子さんが入門されてます。講談や色物の世界にも女流で活躍している人は多く、歌る多さんは講談の神田陽子さん、神田茜さんなどと“桃色婦人会”と銘打っての会や上方の女流噺家さんたちとの落語会を行っていますし、数年前から、故・古今亭志ん朝の遺志を受け継いだ落語、講談、漫才などの女流芸人さんたちが“住吉木遣り連大江戸小粋組”を立ち上げたんですが、この華やかな舞台はぜひ一度見てほしいものです!


で、「ちりとてちん」なんですが、福井出身のヒロイン喜代美は“脇役人生”
のコンプレックスから脱したいと大阪に来て、目指していたわけではないのに落語家に弟子入りしてしまう女の子。舞台が大阪ですから、人々の会話がコミカルでおかしい。周りでわあわあ言ってる人たちがキッチュやキム兄なんですもの。現役の噺家である桂吉弥さんがヒロインの兄弟子・征然亭草原役で出てますし、狂言界のプリンス茂山宗彦くんがまたいいし。昨年の秋に始まったこのドラマ、年末までの前半でヒロインが一門の兄弟子と結婚、年明けからその後の展開になってますが、噺家同士の結婚って! 噺家さんとお囃子さん、または寄席で働いているお茶子さんと呼ばれる女の子など関係者との結婚はあるようですが、同業で、しかも一門って、あり? だいぶ前に、先代の柳家小さんの孫、花緑と林家きく姫の婚約が発表され、柳家と林家の結婚!と落語界の将来が危惧されたようですが、実現すれば初の噺家夫婦誕生ですよね。


「ちりとてちん」には、あの五木ひろしが、五木ひろし役で出てるんですよ。喜代美と同じ福井出身だから。で、あの五木さんが偶然喜代美と出会い、なんだかいろいろよくしてくれるんですが、先日は、地元で落語会をやると言ったら、「じゃあ僕もそこで1曲歌いましょう!」だって。「五木さん、あなたどんだけいい人なんですか!」と喜ぶ喜代美でしたが、日本全国の視聴者の皆さんの心の中にも同じセリフが浮かんだことでしょう。ま、結局来なかったんですけど。さらにどうでもいいことなんですが、このドラマの設定が15年前なので、登場する五木さんは15年前の五木さんらしいです。だから15年前頃に着ていた自前の衣装を、体型が変わってないからって着て出演してるんですけど、五木さんって、10年前も20年前もずっとおんなじだから、いつの五木さんっていわれても、ねぇ。

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桂吉弥
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