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〈NEW AGEお茶の間ヴューイング〉ジョン・ハッセル(Jon Hassell)レビュー【2020.2 144】

■この記事は…
2020年2月20日発刊のintoxicate 144〈お茶の間ヴューイング〉に掲載された、トランペット奏者・作曲家のジョン・ハッセルのレビューです。

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intoxicate 144


ジョン・ハッセルa

Photo by Roman Koval

アンビエント・ミュージックの原点、第四世界音楽再訪

text:畠中実

 その音色は、一聴するにすぐ彼のものだとわかる、きわめてユニークなものだ。一般的にイメージされる、その楽器固有の音色からかけ離れているため、最初はそれをトランペットだとは思わなかった。それは、トランペットという楽器のための、新しい奏法、音色の発明であり、それによって演奏される音楽は、架空の世界の民族音楽というような、神秘的な響きをたたえたものだった。そんな想像の風景を音楽で描き出す「第四世界」というコンセプトを打ち立てて制作された、ブライアン・イーノとの共作『第四世界の鼓動』(1980年)は、彼の存在を一躍有名なものにした。


 ハッセルは、現代音楽を出自とする音楽家で、シュトックハウゼンに学び、テリー・ライリー《イン・C》の最初の録音(1968 年)に参加した。また、ラ・モンテ・ヤングの「ドリームハウス(永久音楽劇場)」にも参加するなど、現代音楽方面でのさまざまな経歴の持ち主である。1937 年生まれ、ヤング、ライリー、ライヒ、グラスといった作曲家と同世代で、イーノよりも10 歳年長である。


 イーノとの活動によって、ポピュラー音楽方面にも知られることになったハッセルは、トーキング・ヘッズ、デヴィッド・シルヴィアン、ティアーズ・フォー・フィアーズ、808 ステイト、ライ・クーダーといった多種多様な共演歴を持っている。それは、彼の独特の音世界に多くのミュージシャンが魅了されたことを意味しているだろう。


 『Vernal Equinox』は1977年にニューヨークの現代音楽、電子音楽レーベルLovely Music からリリースされたハッセルの1stアルバムである。彼がライリーやヤングとともに師事した北インドの古典声楽家、パンディット・プラン・ナートのヴォーカリゼーションから影響を受け、トランペットの独自の奏法を生み出し録音された。すでにあの音色は確立されているが、音へのトリートメントが施されたイーノとの共作よりも楽器の音が生々しく、「声」を感じさせ、またトランペットの演奏に聞こえる部分もある。それはラーガのようであり、ジャズのようであり、しかし、どこにもアイデンティファイされない音楽でもある。ここにはアンビエント・ミュージックの原点がある。アフリカの親指ピアノ、ムビラの演奏で、脳波音楽で知られる、デヴィッド・ローゼンブームが、また以後、イーノとも長い交流が続くマイケル・ブルックも録音で参加している。


 以前にCD 化された際に同レーベルの作品はジャケットのデザインが変わったので、オリジナルで、しかもレコードでも再発されるのは大変うれしい。


ジョン・ハッセルj

『VERNAL EQUINOX』〈CD&LP〉
JON HASSELL
[Ndeya / Beat Records BRC-634(CD)NDEYA2LP(LP)]


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