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〈CLASSICALお茶の間ヴューイング〉ピエール= ロラン・エマール(Pierre-Laurent Aimard)プレヴュー【2020.4 145】

■この記事は…
2020年4月20日発刊のintoxicate 145〈お茶の間ヴューイング〉に掲載された、ピエール= ロラン・エマールのプレビューです。

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intoxicate 145


ピエールロランエマールa

© Julia Wesely

フランスとドイツを代表する大作で、エマールの圧倒的な音響世界に浸る!

text:長井進之介

 聴いた瞬間に驚きを与えられる超絶技巧をもったピアニストが増えている。彼らは複雑な音の連なりを読み解き、どんなに難渋な音型も弾きこなし、聞き手を圧倒していく。しかし、外面だけの輝かしさだけでなく、作品の中に込められた意味や想いに心から共感し、それを鮮やかに聴き手へと“ 届ける” ことのできるピアニストはまだ決して多いとはいえない。だが、ピエール=ロラン・エマールは、作品に込められた精神と美しさを最大限にできる引き出すことができるピアニストとして常に強い存在感を示してきた。どんなに複雑な作品であろうと、楽曲の輪郭、色彩、情景を美しく届けてくれる。研ぎ澄まされた技巧と輝かしさと柔らかさの絶妙なバランスのとれたタッチによって実現されるこの演奏は、あまりにも圧倒的でありながらも、楽譜に書かれたすべてを音へと昇華させることだけに捧げられているために、まったく押しつけがましくなく聴き手へと届く。濃淡、明暗、緩急と様々なコントラストを巧みにコントロールしながら展開する演奏は、音量の幅も広いために、深い奥行きも感じさせる。


 今回のリサイタルはメシアンの《鳥のカタログ》の核ともいえる楽曲〈ヨーロッパヨシキリ〉とベートーヴェンの32 曲のピアノソナタはおろか、あらゆるピアノ曲の中でも難曲中の難曲といえるピアノソナタ第29 番《ハンマークラヴィーア》のカップリング。このプログラムは、エマールがベートーヴェンの生誕250 年を記念し世界中で取り組む“ ベートーヴェンとアヴァンギャルド” シリーズの一環である。どちらも複雑な構成と超絶技巧、さらに長時間の集中力を求められる。


 メシアンはエマールの最も得意とする作曲家の一人であり、〈ヨーロッパヨシキリ〉は様々な音響効果を通して、昼から夜、そして深夜へと移り変わる時間の中で様々な鳥の鳴き声や花が描かれていく作品。エマールの音色の魅力を存分に楽しむことができるだろう。一方、メシアンと対局にあるようにも思えるベートーヴェンも、楽譜に内包されたメッセージを演奏者が紐解き、聴衆に届ける難しさと喜びに溢れ、エマールのピアニズムを味わうのにふさわしい作曲家だ。しかも《ハンマークラヴィーア》はベートーヴェンのすべてのピアノ独奏曲の中でもとりわけ宇宙的な広がりを感じさせるため、メシアンとの親和性も高い。現代音楽につながる“ 道” を切り拓いたベートーヴェンとその道の中で燦然と輝くメシアン。二人の偉大な作曲家による大曲を通して、ピアノという楽器の魅力、彼らの遺した音楽の輝きを再発見できるはずだ。


ピエールロランエマールj

『メシアン:鳥のカタログ』
ピエール=ロラン・エマール(p)
[King International KKC5978] SACDハイブリッド 〈高音質〉


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