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〈NEW AGEロングレビュー〉サンダーキャット(Thundercat)「It Is What It Is」【2020.2 144】

■この記事は…
2020年2月20日発刊のintoxicate 144〈お茶の間レヴュー NEW AGE〉掲載記事。サンダーキャット(Thundercat)の2020年4月3日発売「It Is What It Is」をレビューした記事です。

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intoxicate 144


『Drunk』から3年、プロデューサー・センスが光る待望の最新アルバムをリリース!(原雅明)


サンダーキャットj

【CLUB】〈CD/LP〉
It Is What It Is

Thundercat
[Brainfeeder / Beat Records BRC631(CD)BF100(LP)BRC-
631T(CD+Tシャツ)] 

 これまでライヴで見たサンダーキャットのプレイで、特に印象深かったのは、2016 年にカナダのモントリオールで行われたレッドブル・ミュージック・アカデミー(RBMA)だった。サンダーキャットはRBMAに参加した若いクリエーターの講師役を務めていたのだが、夜に行われたライヴ・イヴェントにも出演した。『RoundRobin』というイヴェントは、ステージ上に2人のミュー特に印象深かったのは、2016 年にカナダのモントリオールで行われたレッドブル・ミュージック・アカデミー(RBMA)だった。サンダーキャットはRBMAに参加した若いクリエーターの講師役を務めていたのだが、夜に行われたライヴ・イヴェントにも出演した。『RoudRobin』というイヴェントは、ステージ上に2人のミュージシャンが代わる代わる登場して5分間の即興セッションをおこなうものだった。サンダーキャットはお馴染みの6弦ベースを持ってステージに登場したが、ランダムに選ばれた演奏相手とのリズムのないフリー寄りのプレイで見せたのは、ソリッドでファンキーなスラッピングしたベースではなく、相手の音をしっかり聴いて反応し、繊細にスケールをなぞって一音一音を丁寧に響かせるものだった。


 そのプレイを見たときに、サンダーキャットの出自には確かにジャズ・ベースがあることを強烈に感じたのだが、翌年リリースの、各方面で話題となって高い評価を受けたアルバム『Drunk』ではそんな出自をナイーヴに見せることは微塵もなく、ケンドリック・ラマーやマック・ミラーからマイケル・マクドナルドやケニー・ロギンスまでフィーチャーして、LAの音楽史を溯行し、大胆に更新する姿勢を見せた。それは、かつてフュージョンからブラジル音楽、ロックやディスコまで自在にスタイルを変化させ、拡げてきたスタンリー・クラークを彷彿させるものだった。サンダーキャットやカマシ・ワシントンたちはLAジャズの象徴であるビリー・ヒギンズやホレス・タプスコットと同じく、クラークや朋友ジョージ・デュークをリスペクトしてきた。ジャズの系譜から見れば、まったく違う立ち位置にあったミュージシャンとその音楽に対して、フラットな視点で接することができるのが、サンダーキャットたちの特徴でもあった。


 YouTubeやサブスクリプション・サービスが浸透して以後、過去の音楽へのアクセスは誰にとっても容易になり、その接し方はよりオープンなものとなった。サンプリング・カルチャーに馴染みのあるD Jやビートメイカーだけではなく、ミュージシャンもその恩恵に預かり、過去の音楽から新たなアイディアやインスピレーションを得ている。『Drunk』でサンダーキャットが見せたジャンルを横断し、時代を遡って多様な音楽やミュージシャンと繋がっていく姿勢には、そのことがよく顕れていた。ミュージシャンとして腕を磨き、やがてソロのリーダー作をリリースするという、従来のジャズ・ミュージシャンのステップアップとは異なったプロセスを歩み、自らプロデューサーとしての視点も持って、作品の全体像や人選を固めていったのが、サンダーキャットを特別なアーティストにした。


 『Drunk』以来の、3年振りとなる新譜『It Is What It Is』は、端的に言えば極めてパーソナルなアルバムだ。前半こそファンキーなムードだが、次第に落ち着いたムードも顕れて、内省的なモノローグのように感じる曲もある。プロデュサーを務めたフライング・ロータスとは『Drunk』以上に密にやり取りをして作られたアルバムだというが、そのことがサンダーキャットの個の部分をより際立たせることになったのだろう。一方で、スレイヴのスティーヴ・アーリントンとジ・インターネットのスティーヴ・レイシー、チャイルディッシュ・ガンビーノを出会わせたり、ヒップホップ・スターでシンガーでもあるタイ・ダラー・サインとカルト的な人気を得ているリル・Bを組み合わせるなど、プロデューサーとしてのセンスを発揮した楽曲もある。そんな中でもアルバム・タイトル曲は最も印象深い。ブラジル、ミナスの気鋭のギタリスト、ペドロ・マルチンスを招いて、このアルバムのラストを飾るに相応しい、ギターとベース、ヴォーカルが美しいアンサンブルを形成する。L Aとミナスを繋ぐように表現されたこの曲からは、サンダーキャットの次なるヴィションを垣間見ることができるだろう。


サンダーキャットa

Photo by Parker Day


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