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第69回:思い出し笑い「祝!三代目・橘家文蔵襲名」(&ツルコ)

ツルコさん

執筆者:&ツルコ

第69回:祝!三代目・橘家文蔵襲名

*intoxicate vol.124(2016年10月発行)掲載

 今回、橘家文蔵のCDが出るときいたとき、この秋に唯一のお弟子さんである文左衛門が文蔵を襲名するので、そのタイミングで先代の音源が出るのね!と喜んだのですが、襲名記念でご本人のCDでした。ああ勘違い。でも、落語に出てくる短気で喧嘩っ早い江戸っ子を体現しているようなキャラクターが魅力の三代目文蔵、もしまだ未体験のかたがいましたら、いますぐ聴いてほしい噺家さんです。

 先代の橘家文蔵は林家彦六の門下でしたが、三遊亭圓生にも可愛がられており、彦六、圓生ゆずりの演目などたくさん持っていたので、“噺の宝庫”と称され、多くの噺家さんたちが噺を教わっていたんだそうです。とても穏やかな人柄で、怒ったところをみたことがないといわれるほどだったとか。でも弟子の三代目文蔵、見た目が強面で、ちょっと荒くれ者キャラ。落語の登
場人物だと、「天災」の八五郎とか、「らくだ」の兄貴分のような感じとい
いますか。着物姿からのギャップがありますが、パンクバンドでギター弾いて歌ったりもしてます。入門当時からヤンチャだったそうで、あの師匠にこの弟子?と心配もされたようですが、師匠にとても可愛がられて、のびのびと個性を伸ばしてこられたんですね。ぶっきらぼうだけど、でもそれは優しさの照れ隠しみたいなところもあって、乱暴そうに見えるけど実は細やかで。たくさんいる噺家さんのなかでも個性が際立っていて、ファンも多い
三代目文蔵の魅力は今回リリースされる2枚のCDでぜひお確かめください。収録されている4席はすべて今年の高座ですので、襲名直前のもの。「猫と金魚」「時そば」といった軽い噺と人情噺の長講「芝浜」「文七元結」を組み合わせた2作品です。自身のキャラクターを活かした工夫もしていて、三代目文蔵がやるからこそのおかしさ倍増。年を重ね貫禄がでてきて、弟子もできたことで師匠からの教えを改めて思うところもあることでしょうし、ここで師匠の名前を襲名するというのは本当におめでたいことです。

 三代目・橘家文蔵襲名披露は、9月21日から都内の各寄席で10日間ずつ50日間行なわれます。鈴本演芸場の大初日に行きましたが、口上には同期である入船亭扇辰と柳家喬太郎も並び、大入り満員の客席から「三代目!」の声がかかっていました。

 先代の文蔵は、弟子が二つ目に昇進して文吾になった頃から体調が思わしくなく、文左衛門と改名して真打昇進することになった2011年の9月に逝去されてしまったため、残念ながら10日ほど後に行なわれた真打披露の高座にその姿はありませんでした。今回は一人で50日もの間トリを務めることになりますが、自分の名を継ぐ弟子が無事に務めあげられるよう、師匠が見守っていてくれることでしょう。

 鈴本では、トリで登場した文蔵がマクラで今回のCDのことを話していたのですが、レコード会社から購入特典用の色紙を100枚頼まれて、最初はもっともらしく書いていたのが、だんだん飽きてしまい、缶チューハイを飲みながら「ラザニアが好き」とか「ナポリタンも好き」になっていってしまった、と。本当かどうかわかりませんが、ありえそうでおかしいその色紙にあたったらうれしいかもー。

 ちょうどこの号が出る頃は披露興行の真っ最中!「たぶん休みません」と言ってましたし、浅草演芸ホール、池袋演芸場、国立演芸場に間に合いますので、駆けつけてお祝いしてあげてくださいね!

CD『ビクター二八落語~究極の音にこだわる落語シリーズ「芝浜」「猫と金魚」』
橘家文蔵
[Victor Entertainment VICL-64630]

CD『ビクター二八落語~究極の音にこだわる落語シリーズ「文七元結」「時そば」』
橘家文蔵
[Victor Entertainment VICL-64631]

思い出し笑いライン


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