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第3回:思い出し笑い「さよなら、こぶちゃん」(&ツルコ)

ツルコさん

第3回:さよなら、こぶちゃん

執筆者:&ツルコ
*intoxicate vol.54(2005年2月発行)掲載

テレビではいじめられキャラでおなじみの林家こぶ平。最近、ちょっと耳にしたりしません? こぶ平の落語がいいらしいって。じわじわとそんなウワサあり。とはいえ、大多数のひとはきっと、「落語、できるの?」という反応でしょう。父親譲りの愛嬌で、お茶の間の人気者としての認知度は高いのですが、落語をやっている高座姿を見る機会はほとんどないから、ごもっともです。

 でもね、そんなこぶちゃんも42歳、もう惑ってる年ではないんです。いつまでもバラエティ番組などで、「えー、ボクだめなんですぅー」とか言ってるんではホントにだめなわけで。

 10代の頃、古今亭志ん朝の高座に触れて、噺家になる決意をし、父・三平に入門。25歳のときには、13人抜きで最年少の真打ちになるほどだったのに、芸能界に浮気していっちゃたのは、偉大な親と同じ道を選んでしまったことからくる様々な想いから逃げていたのでしょうか。30代後半になるまでのこぶ平は落語家としては注目すべき存在とはいえませんでした。それが、どうしたことでしょう。タレントなのか落語家なのか中途半端な自分の立ち位置に対する自覚があったのかもしれませんが、数年前から、落語の世界に戻ってきたのです。

 自分の勉強会を積極的に始め、同じ二世であり尊敬する志ん朝からの導きがあったり、春風亭小朝の発案で、鶴瓶、昇太、志の輔、花緑と共に「六人の会」へ参加するなど、ちょうど時代がこぶ平の落語への回帰を促したのかも、というのはちょっと大袈裟ですが、ここ数年の落語への取り組みはかなり真剣。まあ、ずっと稽古を重ねてきている落語家は大勢いるのですから、「落語の面白さに目覚めた」なんて、今ごろ何を言ってるんだという感はありますが、その頑張りが認められたか、このたび、祖父の名跡である正蔵という大きな名前を、九代目として襲名することになりました。

 祖父(七代目・林家正蔵)、父(林家三平)と並んで親子三代の真打は落語界では初めてという、実はサラブレッドのこぶ平。正蔵は昭和24年に没しているので、あまり馴染みはないですが、三平の「どーもスイマセン」は、この正蔵譲りだそう。継承されてきたネタだったのね。こぶ平という親しまれた名前がなくなるのはさびしいことですが、いま、こぶ平の10歳になる長男が「林家小ぶた」、8歳の次男も「林家よろこぶ」として高座に上がっているので、いずれ落語界初の四代真打ちとなって、こぶ平を継ぐ日がくるかもしれません。

 3月から4月にかけての40日間、都内の寄席4軒で10日間ずつ行われる披露興行では、こぶ平改め九代・正蔵がトリで高座に上がります。いつもテレビで観ている、あのこぶちゃんはそこにはいません。キリッと黒紋付きを着た新・正蔵が、凛々しい姿で落語を語ることでしょう。ですから、ぜひ確かめに足を運んでみてください。ホントに落語、やりますから。そして見直しちゃいますから、絶対。

 というわけで、こぶ平は、この春、正蔵となります。いきなりものすごく真面目そうな、堅そうな、いかにも名人、な名前で、今までの「こぶちゃん」のように気易く呼べない感じですが、人柄までが急に変わるわけではないので、すぐに「しょうちゃん」とか呼ばれちゃうのかも。所ジョージには「モトこぶ平」はどうだ? モト冬樹がいるんだからと言われたらしいけれど、義理の兄さんの小朝は、九代目ってことで「くーちゃん」って呼ばせたいらしいのです。どっちがいいかしら?

思い出し笑いライン


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