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第63回:思い出し笑い「柳家小さん生誕100 年!」(&ツルコ)


第63回:柳家小さん生誕100 年!

*intoxicate vol.118(2015年10月発行)掲載

 いまマクドナルドのCMで、「パリパリのパイのなかに熱々のとろーりあんこ…」といいながら、エアあんこパイを食べているのは、人気の若手噺家・柳家三三(さんざ)。ついにCM出演、果たしちゃいました! やったね!


 噺家さんは高座で、エアそば、エアうどん、エアまんじゅうなどいろいろなものを食べてます。そばやうどんもそうですし、「二番煎じ」で、猪鍋の熱々をふうふう吹いてさましながら食べる様子は、ただの仕草でそこには何もないのにすごーくおいしそうで、たまりません。


 三三の大師匠である先代の五代目・柳家小さんも、そばやうどんをすすったり、お酒を飲んだりがそれはそれはおいしそうでしたが、以前、サントリーの広告に起用されたことがあって、「今夜は、エアウイスキー」というキャッチコピーに、エアウイスキーグラスを持つ小さんの姿。飲酒運転を防止するためにお酒のメーカーがつくった広告なんですが、もうこれ思いついた人、素晴らしすぎ! 


 昭和から平成の時代まで、落語界の中心的存在として活躍し、所属する落語協会の会長も長く務め、ついには噺家で初の人間国宝になった柳家小さん。もう亡くなられてから13年になるのですが、生きていたら今年は100歳! ということで、超お宝音源初出しの『圓朝祭の五代目柳家小さん』というCDブックが刊行中です。


 三遊亭圓朝は、江戸〜明治期に活躍した落語の大名人。圓朝作の「牡丹灯篭」「真景累ヶ淵」などの怪談噺や人情噺はいまも“圓朝もの”として人気ですし、歌舞伎化されたりもしています。圓朝の命日が8月11日で、墓所がある東京・谷中の全生庵では幽霊画の展示などが行われ、落語協会でも圓朝忌として奉納落語や扇子のお炊き上げの法要を行っていました(一時はイヴェント化しましたが、いまは法要に戻っているよう)。この圓朝の名を冠したホール落語が毎年夏に行われている「圓朝祭」。この落語会が今あるのは、小さんのおかげ、だったんです。志ん生、文楽、円生らとともに小さんも出演し長く続いていた「東横落語会」がホールの閉鎖によってその幕を閉じることになったとき、「東横落語会」の特別公演として夏に行っていた「圓朝祭」は残そう、と提案したのだそうです。そうして1985年にイイノホールで行われた「圓朝祭」は、三遊亭圓橘、柳家小三治、三遊亭圓右、立川談志、古今亭志ん朝、三遊亭圓歌、そして小さんとそうそうたる顔ぶれ!


 「東横落語会」は残念ながら終了してしまいましたが、「圓朝祭」は引き続き夏の恒例として続いていくことに。昭和の時代に最高峰であったという「東横落語会」の火を絶やさずに「圓朝祭」として引き継ぎ、いまも続くこの落語会は、小さんが残してくれたものだったんですね。


 小さんは圓朝ものをてがけてはいませんでしたが、自身の発案で続くことになったこの会には亡くなる前年まで毎年出演していました。その記念すべき1985年のトリを務めた高座「へっつい幽霊」から、最後の出演となった2001年の「気の長短」まで、晩年の小さんの貴重な17席が4席ずつ(第4巻は5席)年代順に収録されているのが、7月から毎月刊行されている『圓朝祭の五代目柳家小さん』全4巻です。


 久しぶりに聴く小さんの声は「ああ、この声!」と懐かしく、訥々とした語り口、ぶっきらぼうなようなやりとりもおかしくて、幽霊も泥棒も、殿様も家来も、それぞれみんな愛すべき存在で、落語ってやっぱりいいなあとしみじみ。ブックには小さん自身のひとり語り、弟子の柳亭市馬や娘から見た父・小さんの話などのインタヴュー、長井好弘さんによる演目解説なども収録されていて、じっくり楽しめる2枚組です。10月の最終巻が待ち遠しい! 秋の夜長に小さんの落語、オススメします!

CD+BOOK『圓朝祭の五代目柳家小さん』柳家小さん
第一巻「へっつい幽霊」「夏どろ」「将棋の殿様」「粗忽の使者」
第二巻「南瓜屋」「三人旅」「蒟蒻問答」「欠伸指南」
第三巻「天災」「猫の災難」「湯屋番」「禁酒番屋」
第四巻(2015 年10 月26 日発売)
    「青菜」「試し酒」「千早ふる」「粗忽長屋」「気の長短」
各巻CD 2枚組 A5 変形版書籍
小学館  ISBN:9784094801873
※刊行終了

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