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〈CLASSICALロングレビュー〉バッハ・コレギウム・ジャパン『J.S. バッハ:合唱曲大全集』【2020.4 145】

■この記事は…
2020年4月20日発刊のintoxicate 145〈お茶の間レヴュー CLASSICAL〉掲載記事。バッハ・コレギウム・ジャパン創立30周年を記念し2019年12月21日に発売された、日本独自の豪華ボックス・セットをレビューした記事です。

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intoxicate 145


バッハとともに歩いた30年の集大成(加藤浩子)

バッハコレギウムj1

J.S. バッハ:合唱曲大全集
鈴木雅明(指揮)&バッハ・コレギウム・ジャパン
[KING INTERNATIONAL KKC-8750] 79SACD Hybrid + 特典DVD 〈高音質〉

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バッハコレギウムj3


 バッハは、人生をともに歩くのにふさわしい作曲家だ。


 彼は18世紀前半のドイツで演奏されていたあらゆるジャンルの音楽に満遍なく傑作を残し、当時の音楽を集大成した。なかでもカンタータをはじめとするルター派の声楽作品は、バッハの創作の「核」である。20代で初のカンタータに取り組んで以来、遺作となった《ロ短調ミサ曲》〜カトリックの「ミサ曲」の形式をとりながら、カンタータからの転用がほとんどの大作〜まで、時に膨大な数をこなし、時に《受難曲》という高峰を築きながら、バッハは常に礼拝音楽と歩み続けた。


 今年創立30年を迎えるバッハ・コレギウム・ジャパン(以下BCJ)は、バッハの声楽作品とともに歩み続けてきた団体である。BCJが日本の演奏団体としては初めてバッハのカンタータの全曲演奏と録音を成し遂げたことはよく知られているが、足かけ18年という時間をかけ、作曲順に、つまりバッハの軌跡を丁寧にたどりながら取り組んだ例は世界を見ても他にない。その道のりには、BCJの軌跡が重なる。カウンターテノールという存在がまだ珍しく、米良美一らが出ていた初期から、国際的な歌手が次々に登場し、合唱が精度を増し、器楽のソリストたちが腕を上げ、世界有数の古楽団体として認められてゆく道のり。そこには、世界のバッハ演奏の道のりも反映されている。そしてコンサートやCDで彼らの歩みをともにした聴き手も、その道のりを共にし、そしておそらく自分の軌跡をもそこに重ねて歩いてきた。このような達成感を、奏者と受け手が共有できるプロジェクトはまれだ。それも、バッハだからかなったことではないだろうか。バッハは、そういう作曲家なのである。


 この度、そのBCJの30年の道のりが、『バッハ合唱曲集』として一つのボックスにまとめられた。教会カンタータや世俗カンタータから、三大宗教曲、ルター派ミサ曲、モテット、オラトリオ、マニフィカトまで、バッハの声楽作品が一度に見渡せる壮観この上ないボックスである(《ヨハネ受難曲》は、CDに加えてDVDもついている)。またマニフィカトのような一部のジャンルで、バッハと関連の深い別の作曲家の作品が収録されているのも興味深い。そのことによって、21世紀の私たちには馴染みのないこのようなジャンルへの理解が深まるのはもちろん、バッハの周辺も見えてくるのである。


 大部の解説書で、定期演奏会のプログラムに収録された作品解説と、指揮の鈴木雅明による「制作ノート」が読めるのも嬉しい。現場からの声である「制作ノート」は楽譜の状態や演奏の実際を教えてくれ、作品がより立体的に理解できる。もちろん全曲の歌詞対訳もついている。

 BCJの、けれん味を排し、真摯で、透明感のある美しさに満ち、テクストの内容を音楽にきちんと反映させようとする演奏は、現代のバッハ演奏のスタンダードとなる力を持っている。オペラティックな効果を追求する団体も少なくない中で、声楽と器楽のバランスを大切にし、細部に目配りし、バッハの複雑な対位法を明瞭に浮かび上がらせる。端正なドイツ語の発声も、ドイツ本国をはじめ各国で絶賛されている。


 人生を並走してくれるバッハの音楽は、崖っぷちにいるときにとりわけ力を発揮する。BCJはこれまで何度も、そのようなバッハの力を伝えてきた。東日本大震災の直後に、ニューヨークの《ロ短調ミサ曲》で満場の聴衆を感動させたのもBCJなら、この3月、ヨーロッパ・ツアーに出ながら新型コロナウィルスの影響で途中でツアーを断念しなければならなくなった時、ケルンのフィルハーモニーで《ヨハネ受難曲》の無観客上演と録音を行い、全世界にストリーミング配信して世界のお茶の間を感動させたのもBCJである。BCJはバッハとともに、伝説を残してきたのだ。それも彼らが、バッハの音楽の力をよく知るがゆえである。BCJは欧米での評価が極めて高い団体だが、それは演奏水準の高さに加え、バッハの作品への真摯な向かい方が大きな理由なのではないだろうか。

 このボックスに詰まっているのは、日々の心の糧となる音楽である。そしてその奏者としてBCJほどふさわしい団体は、多分ない。


バッハコレギウムメイン

BCJⒸ星ひかる

バッハコレギウムa

Masaaki SuzukiⒸMarco Borrgreve


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タワーレコードが発行するフリーマガジン「intoxicate(イントキシケイト)」のnote版です。intoxicateに掲載された音楽・映画・本等のインタビュー&レビュー記事や試写会のご案内等を掲載しています。本誌の発刊日は偶数月の20日(10・12月は10日)