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第55回:思い出し笑い「桂歌丸 来年は「笑点」50 周年!」(&ツルコ)


第55回:桂歌丸 来年は「笑点」50 周年!

*intoxicate vol.110(2014年6月発行)掲載

 日曜日の夕方といえばお馴染みの「笑点」は、半世紀近く続く超ご長寿番組。大喜利の唯一のオリジナル・メンバーで現在司会を務める桂歌丸が体調不良とのことで心配していましたが、めでたく復帰し番組も無事収録とのニュースに全日本国民がほっとしたことでした。よね?


 今回は久しぶりの朝日名人会CDが2作同時リリース。昨年の高座を収録した最新音源です。「笑点」で聴き馴染んだ声も心地よく、ゆったりとした語り口で、ぐっと噺の世界に引き込まれます。円熟の芸とはまさにこのこと。それにしても「紺屋高尾」「小間物屋政談」とも40分を越える長講を淀みなく淡々と演じてますが、御年77歳、喜寿ですよ。改めてすごいと思います。全部頭の中に入ってるんですから。譜面とかないんですよ。暗譜です。1人で登場者全員のセリフを言い、演じる。人の名や地名など1つ抜けたり思い出せなかっただけで、話が先に進みません。こうして思い出しながら噺をするのは、脳への刺激になって、もの忘れ防止になりそう。シニア世代の趣味として落語、どうでしょう? まずは前座噺から。


 歌丸は、20代の二つ目時代から「笑点」に出演、60年代の演芸ブームもあって大人気となるものの、40代になり、このままでいいのか、との思いから、「きちんと落語に取り組む」ことを決め、横浜・三吉演芸場での独演会をスタート。同じく「笑点」メンバーで、番組内でお互いをけなし合うやりとりでコンビ的な人気を誇った三遊亭小円遊が、その人気に溺れるように
道を外れ、若くして亡くなったのは対照的なことでした。古典落語のイメージのある歌丸ですが、入門したのは“おばあさん落語”の古今亭今輔。新作落語の師匠でしたので、新作落語と古典落語の両方を手がけていましたが、独演会を始めて徐々に古典落語の比重が大きくなっていったそう。古典落語でも、人がやらない噺や珍しい噺を発掘して高座にかけることも積極的に行ってきました。


 50代になった90年代には、TBS落語研究会プロデューサーの勧めがきっかけで、三遊亭円朝作品に挑戦したことから、以降、円朝ものにも積極的に取り組み、今ではライフワークというほどに。その最初となったのが「怪談牡丹灯籠」の「栗橋宿」(朝日名人会『桂歌丸3』で聴けます)でした。90年代後半には、「真景累ヶ淵」を5編にし、毎年1編ずつ、5年をかけ全編口演を果たしました。このときは、演じる人のいなかった「お熊の懺悔」までを演じたことで、「円朝以降では初の全編通し」と話題に。2002年から05年には同様に「怪談牡丹灯籠」4編を口演。両作品とも、過去のテープや速記本などを丹念に調べあげ、自身で納得がいくよう工夫し、こつこつと仕上げていく、時間をかけた丁寧な取り組みでした。このこれからの季節にぴったりな怪談噺2作は大作ですが全編CD化されています。毎週「笑点」で“大いなるマンネリ”(変わらぬ高視聴率に敬意を表した褒め言葉)なお笑いをお茶の間に届けていた反面、このような地道な作業でたゆまずに自身の芸を磨き続けてきていたんですね。


 今回のCDはそれぞれ噺1席に「歌丸ばなし」としてトークも収録。入門した頃の思い出話、師匠の教えや芸談などを語っていますが、2011年に芸歴60年を迎え、半世紀も昔のことなのに記憶が鮮やかで、すらすらと名前や地名が出てくるのはさすがです。そして、浪曲作品の落語化や挑戦したい噺がまだある、と意欲は衰えず。10月には朝日名人会への出演もあり、また新たな作品が期待できるかもしれません。来年は「笑点50周年」を迎えることですし、これからも元気な姿で座布団に座っていてほしいですね。


CD『桂歌丸12 紺屋高尾/ トーク: 歌丸ばなし1』
桂歌丸
[ 来福 MHCL2448]

CD『桂歌丸13 小間物屋政談/ トーク: 歌丸ばなし2』
桂歌丸
[ 来福 MHCL2449]

思い出し笑いライン


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