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第58回:思い出し笑い「映画も落語も 林家たい平の濃い1年」(&ツルコ)


第58回:映画も落語も 林家たい平の濃い1年

*intoxicate vol.113(2014年12月発行)掲載

 東京の江東区にある「深川江戸資料館」には、江戸末期の深川の町の一角を実物大で再現したスケールの大きい展示空間があるの、ご存知ですか? 長屋や商店が並び、火の見櫓が立ち、船宿のある掘割には舟も浮かんでいて。さらに、照明で朝から夜までの陽の光を表現していたり、物売りの声が聞こえてきたり、長屋の各部屋には住人が想定され仕事道具や生活用品も置かれていて当時の人々の暮らしぶりがうかがえる、驚きの再現力! 部屋の中まで入れちゃうので、落語に出てくる八っつぁん、熊さんはこういうところに住んでいたんだろうな、とリアルに体感できる感動の場所なんです。


 この落語的空間で、初めて撮られた映画『もういちど』は、「笑点」大喜利のオレンジ着物でおなじみの林家たい平が主演を務め、この夏公開されました。江戸が舞台の、まさに古典落語の世界そのままの映画です。この作品に企画段階から関わったたい平は、同じたい平という名前の噺家役で初主演。侍や殿様は登場せず、わけありな様子の元噺家と奉公先に馴染めない少年・貞吉との交流を中心に、長屋で暮らす人々の日常があたたかく描かれてます。三遊亭金馬もいい感じでご出演。


 落語は、噺家が1人で語る噺を、聴く人が想像力を働かせ、頭の中のスクリーンに登場人物や風景などを描くものですが、長屋の狭い部屋、路地や井戸端の様子などがリアルに撮られたこの映画は、その想像力の手助けにもなりそう。


 見逃していたこの作品を11月に堀切映画祭で観ることができたのですが、上映後のトークショーに登場したたい平が、噺家になってから、古典落語の舞台である江戸の暮らしがどんなものだったのかを感じたいと、深川江戸資料館の長屋の小さな一間で、当時の暮らしに思いを馳せながら1日を過ごしたことがあったと話していました。撮影は月2回の休館日しか行なえず、スペースも限られていたりと、かなり大変だったようですが、ここでなければ、というたい平の強い思い入れがあったんですね。


 長屋は狭いけれど、それはマイナスではない。狭いながらも家族が顔をつきあわせている幸せ、何も起こらない日常の暮らしの幸せ、そういったものが落語にはあると、映画に託して伝えたかったのでしょう。子供たちや家族に落語を届けたいと、できあがった作品を観てもらうために監督と共に積極的に活動を続けているそう。


 大学時代に初めて落語を聴いたときに感じた温かい気持ち、自分の落語でお客様を楽しませたい、落語の楽しさを伝えたいという思い、これからの子供たちにこそ落語をもっと聴いてほしいという願いなど、たい平のいろいろな思いがこの映画『もういちど』に詰め込まれているようです。


 映画に続いてこの秋には、CDシリーズ「たい平落語」の5作目となる最新作をリリース。古今亭志ん朝から受け継いだ古今亭駿菊に稽古をつけてもらったという「おかめ団子」では2組の親子が描かれ、「抜け雀」も絵師の父と息子が登場する、「親子」にまつわる2席が収録されています。家族揃って落語を楽しめるよう、たくさんの親子にたい平落語が届きますように!

CD  林家たい平 落語集『たい平落語』
「おかめ団子」「抜け雀」
[日本コロムビア COCJ-38833]

思い出し笑いライン


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