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第2回:思い出し笑い「震えるおじいさん、永遠に」(&ツルコ)

ツルコさん

執筆者:&ツルコ

第2回:震えるおじいさん、永遠に

※intoxicate vol.53(2004年12月発行)掲載

日曜日の夕方五時半、おなじみのメロディが日本全国に流れ、ああもう休日も終り、また仕事の(あるいは勉強の)日々が始まってしまうんだなぁ、と皆さんをせつない気持ちにさせる、あの『笑点』が、来年は40周年を迎えるとか。大変な長寿番組で、かつ高視聴率。意外に皆さん、観てるんですよね、老いも若きも。金曜日や土曜日はお出かけするけど、日曜日の夜は、やっぱりお家で過ごす人が多いってことでしょうか。色とりどりの着物を着た六人の噺家が毎度おなじみ馬鹿馬鹿しく競い合う大喜利は、毎週のお約束。地方の落語会に呼ばれて行った噺家さんが、用意された舞台を見ると座布団が6枚並んでいた、なんて笑い話もあるほどですから、国民的人気番組なんですね。テレビの力は絶大ですから、『笑点』の大喜利メンバーは、北から南まで日本全国から「落語会にぜひ」と引っ張りだこ。


大喜利では、黄色い着物を着て、「いやん、ばかん」とか「やーねー」とか言っては笑いを誘っているキクちゃんこと林家木久蔵さんの落語会では、まあ、お客さんの楽しそうなこと、こちらまで幸せになってしまいます。テレビでおなじみの人がそこにいて、あのまんまなんですから。噺の前のマクラでは、なぜ円楽さんの顔はあんなに長くなったのか、とか、歌丸さんと奥さんの馴れ初め秘話など、『笑点』のウラ話でもたっぷり笑わせてくれますが、噺のほうでは、古典でも新作でもない、木久蔵落語ともいえる独自のスタイルを確立しており、声色や物まねを取り込んで、語って聞かせるその噺は、何度聞いてもそのたびに笑ってしまいます。なかでも人気は、木久蔵さんが弟子入りした師匠、彦六(八代目・林家正蔵)にまつわるエピソードをまとめた『彦六伝』。アーモンドチョコを食べて、「このチョコには種がへぇってるじゃねえか」と怒ったとか、「お餅はなぜカビるんですかね」と聞かれて「早く喰わねえからだ」と答えたとか、残っている逸話や語録が豊富なのに加えて、晩年は高血圧で体が震えていたのを、木久蔵さんがデフォルメして見せ、特徴のある口調もそっくりに真似るものだから、さらにおかしい。客席大爆笑の嵐です。でもこれは、ただおもしろおかしく聞かせようとして生み出されたものではないのです。名人といわれた彦六ですが、亡くなった後、献体し、葬儀、法要も行わない遺言だったため、このまま師匠のことが人々の記憶から消えていってしまわないよう、弟子が師匠の思い出を語ることで、いつまでも彦六を残したい、という願いをこめてつくられました。また、広沢虎造の『清水次郎長外伝』からヒントを得て、彦六の弟子ひとりひとりにも話を広げた、『彦六外伝』も生まれたのです。木久蔵さんは、落語会だけではなく、高校の芸術観賞会にも呼ばれて、落語を披露することもあります。ナマ木久蔵を一目見たいと携帯電話を持った生徒にトイレまで追い掛けられたりと、ここでも人気者ですが、そういう子供たちからも、「震えるおじいさんの噺を聞きたい」とリクエストがあるそうなので、林家彦六は永遠ですね。機会があったら、ぜひ皆さんもナマ木久蔵さんの落語会に足を運んでみてください。彦六に会える可能性はかなり高いですから。


追加情報。『笑点』で、歌丸さんなど周りのメンバーが「まずい」を連発してるので、すっかり有名な「木久蔵ラーメン」ですが、なんと東京駅の東京みやげ売り場で、売り上げ1位を記録しているそう。特に日曜日の売り上げがいいそうですから、『笑点』効果は大きいですね。まずいと言われてるけど、どうなんだろう、というわけで、つい手に取ってしまうのかも。こちらも一度、おためしを!


●林家木久蔵 / 木久蔵落語 キクラクゴ
https://columbia.jp/prod-info/COCJ-39037/

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