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第64回:思い出し笑い「この人のこの一席!」(&ツルコ)


第64回:この人のこの一席!

*intoxicate vol.119(2015年12月発行)掲載

 落語というと、「おじいさんが座布団に座って話している」イメージ、って言われたりしますが、でもそういえば最近、“おじいさん”の噺家さんが少なくなってきているような。実力のある若手、脂ののったベテランの層が厚くなってきていて、その上の大御所“おじいさん”が希少になってきてるかも。まあこれは自分が年とってきてるせいで、若い頃に感じてた“おじいさん”の年齢があがっているせいもあるかと思いますが。


 寄席で落語を聴いているとき、今年5月に惜しくも亡くなられた入船亭扇橋や、春風亭昇太の師匠である故・春風亭柳昇のような、ゆったりのんびりとした風情の高座が、若手や色物さんたちの高座の合間にあるのは、なんとも心地よくて、大好きでした。また、昭和の時代にはラジオやTVで大人気だった橘家圓蔵を80年代に初めて寄席で聴いたときは、あの「眼鏡スッキリ曇りなし!」の人が目の前に!と感動したものですが、やはりこの10月に亡くなられてしまいましたので、あの明るい高座をもう聴くことができなくなってしまったのは残念です。今年は扇橋に続いて圓蔵も…ということで、さびしく思っていたところ、よく寄席で聞いていたあの一席がリーズナブルに聴けるシリーズが! 「NHK落語名人選100」は、昭和から現在まで39人の、落語界を代表する噺家それぞれの得意とする演目が聴けるんですが、なんと1枚千円で! 100枚がBOXになっていたら、なかなか手が出ないと思うんですが、これだと、あの人のあの噺を聴いてみたいって、気軽に手に取れちゃいますよね。三木助の《芝浜》とか志ん生の《火焔太鼓》とか、名人の十八番といわれるものをまず聴いてみたり、落語本で演目や名演を紹介しているものをガイドに、昭和の名人からいま現役で活躍している噺家まで、ちょっとつまんでみるように聴いてお気に入りを探す楽しさもありますね。個人的には、柳家小満んのCDが出るのが、BOXには手が出なかったので、ありがたし。


 扇橋CDには、40代の《ねずみ》と、60代の《茄子娘》を収録。この《茄子娘》は、埋もれていた噺を扇橋が復活させたもので、寄席でもよくかけていました。色っぽい話になるかと思いきやなんともトボケたオチに脱力の、扇橋LOVEな一席です。圓蔵CDには、やはり寄席でよく聴いた《猫と金魚》が収録されており、楽しそうに演じていた姿が思い出されます。もう1席の《鰻の幇間》も、ヨイショの固まりのようなたいこ持ちがギャグを交えながらのマシンガントークで、“ヨイショの圓蔵”全開! このシリーズにはこういう「この人のこの噺、聴いてみたい!」がたくさんあるので、名前は知っ
ていたけど聴いたことはなかった噺家さんの高座、聴いてみたくなりますね。


 現在、東西落語界の最高齢は、落語芸術協会の最高顧問である桂米丸、御年90歳。まだ現役で寄席にも出演されてます。同じ落語芸術協会の三笑亭笑三も90歳なんですが、米丸のほうが半年前に生まれており年上ということで、なかなか自分が最高齢になれないってぼやいてたりするそうで。落語協会のほうでは、三遊亭金馬86歳が最高齢で、三遊亭圓歌84歳ともにまだ現役ですので、機会があればぜひ、です。お正月の初席と呼ばれる寄席では、年始のご挨拶も兼ねて、噺家さんたちが顔を揃えますし、高座も華やかですので、いい機会かも!

CD 『NHK 落語名人選100 BOX[100CD+ グッズ]』
数あるNHK 落語音源の中から名作をピックアップし39 名の演者による118 演目を100 枚のCD に収録
[ ユニバーサルミュージック POCS-25901]

1『ねずみ/ 茄子娘』九代目 入船亭扇橋
  [ ユニバーサルミュージック POCS-25066]
2『へっつい幽霊』九代目 入船亭扇橋
  [ ユニバーサルミュージック POCS-25067]
3『鰻の幇間/ 猫と金魚』八代目 橘家圓蔵
  [ ユニバーサルミュージック POCS-25074]
4『寝床』八代目 橘家圓蔵
  [ ユニバーサルミュージック POCS-25075]
5『雑俳/ 南極探検』春風亭柳昇
  [ ユニバーサルミュージック POCS-25056]

思い出し笑いライン


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