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サッカーも「体験」から「科学」へ。動きの数値化によりW杯で導入されているデータ活用術とは

W杯が終盤を迎えている今、どちらを応援するでもなくただただ試合を見ていますが、世界上位に君臨するチームのプレーはまさにプロの仕事。
見ているとすっかり魅了され、気付けば深夜や朝方という方も多いのではと思います。

リアルタイムデータがビジネスの場面で活用されているように、スポーツでもリアルタイムデータの活用が急速に進んでいます。

今回は、サッカーに特化したデータの活用事例についてまとめてみました。


データ活用はいつから?

サッカーでは、2018年のFIFAワールドカップの ロシア大会でタブレットが初めて提供されたとか。
それ以前は使っていなかったのだと少し驚きました。

FIFAは、2018年のW杯直前にサッカー競技規則を改正し、それまで禁止されていた通信可能な電子機器のベンチへの持ち込みを許可。これにより、ベンチの外にいるアナリストが情報(映像/画像、プレーデータ/トラッキングデータ)を得て、ベンチ内の監督やスタッフに分析結果などが送れるようになったそう。
この際提供されたタブレットの使い方として、1台はベンチ外のスタンドにいるアナリスト、もう1台はベンチにいるスタッフらが使用。
テクニカルデスクでは、メインカメラとゴール裏カメラの2台のカメラ映像を活用でき、選手やボールに関する統計情報やデータを表示。これらをスクショし、メモを入力してベンチに送る形で活用していたそうです。

そして今年2022年のW杯、大会直前にFIFAは、今大会で多くのパフォーマンスデータを公開することを発表。(「FIFA Training Centre: FIFA to introduce enhanced football intelligence at FIFA World Cup 2022™」)

こちらのデータは大きく11の項目で分かれており、リンク先のJapaneseのPDFからは日本語でも説明が公開されています。
また、メディア関係者や大会に参加するチームスタッフ、選手にはこれらのデータと共にビデオ分析のための専用プラットフォームまで提供されているとか。
今やサッカーにおけるデータ活用は、当たり前になりつつあります。

具体的な活用事例

実際にどのような形でデータを収集し活用しているのでしょうか?
代表的な3つをご紹介します。

・ボールを支配していない時間
ボールを持っている時間、いわゆるボール支配率は、どちらのチームが優勢か?という試合の戦局を見る上で古くから使われていました。

細かいデータの定義はデータ会社・取得方法によって差異があるようですが、ボールを持っている時間(もしくはプレー数、パス数など)の合計値と相手の同データを合算した上でその比率がボール支配率として使われており、片方が54%であれば相手は46%となり、合計が100%になるのが一般的。

これが、今年のカタール大会からは空中戦時にボールに触れた際や守備プレー後のルーズボール状態、シュートをブロックした場合、クリアボールをIn Contest(中立)状態とし、そのパーセンテージを加味するようになったとか。

このIn Contest(中立)状態は、試合序盤において蹴り合うような展開になると増えやすいため、この状態も加味することで、通常のボール支配率の表現よりもどういった試合が展開されているのかを把握しやすくなりました。

・ボール支配率をさらに細分化

さらに、ボール支配率の内訳を細分化。
具体的には、ボール保持時と被保持時の中身を分類して、そのパーセンテージを示すことで、どういう試合状況だったかをもう1段階深く把握することができるように。この変化も、今回のカタール大会からだそう。
保持であれば8つ、被保持の場合は9つに分類しています。

保持時においてはこれまでのボールタッチベースのデータでもいくつかは再現できたそうですが、被保持時の状況判別ができるようになったのはトラッキングデータの存在が大きいとか。
(分類の詳細が気になる方、FIFAのページ「FIFA Training Centre: EFI metric phases of play」にある動画付きの説明をご参照ください)

・トラッキング

WEBサイトにおけるトラッキング(インターネット上でWebサイトの来訪者やオンラインサービスの利用者を識別し、訪問履歴やサイト内での行動を記録・追跡すること)は当社が得意とするところですが、スポーツにおけるトラッキングとは?

一般にプレイヤーおよびボールの位置情報が格納されたデータのことを指します。

トラッキングデータの代表的なものは、選手の走行距離やスプリント数。
こちらはW杯だけではなく、JリーグのJ1の試合でも集計され、節ごとのスプリント数のランキングなどが公表されるようになっています。これにより、サッカー関係者だけでなく一般のサッカーファンにとっても、数字で見ることによる奥深さが加わりました。

カタール大会では、瞬間ごとの選手、審判、ボールの位置データの集合体を収集。そこからスピードや移動方向を判定しているそう。
そのため、各シチュエーションの選手のポジショニングから、幅や深さの距離の計測が可能に。
また、ゴールラインから最終ラインまでの距離、フィールドプレーヤーの縦、横の距離を測り、保持の際にどれくらい幅を取るチームなのか、ブロックの際のラインの高さはどれくらいか?などを読み取ることができるようになりました。


ボールにチップを内蔵する技術を開発した、
ドイツのミュンヘンに拠点を置くKINEXON社はIoTスタートアップ企業

データ収集を支える技術とは


トラッキング技術について、その主流はGPS技術を活用したものでしたが、今の最先端はGPSでなくAIだとか。
2021年末の時点で、「FIFA BASIC」「FIFA QUOLITY」と呼ばれる、FIFAが認証したトラッキングシステムは世界で38あり、そのうち34がGPS、残りの4つがAIだったそう。ここ1年弱で加速度的に技術革新が進んでいるといえそうです。

GPSからAIに進化したことによるメリットは大きく3つ。

一つは費用を格段に抑えられる点。
GPSタイプの場合、専用カメラに加え選手数分のGPS装置が必要になり、加えて毎回、取得したデータを集計するのに専門のスタッフも必要でしたが、AIになったことでこれらが不要になりました。
二つ目は、データ集計が非常に簡単で利便性が高い点。
4Kカメラ3台でフィールド全体を網羅し、全選手の動きを映像で収めることで、あとは設定した条件に応じてAIが自動的に集計してくれます。
三つ目は、数値ではなく映像で振り返りができる点。
全シーンを映像で振り返りたいと思えば、まるで検索するような手軽さで全シーンを一覧で表示させ、各シーンを瞬時に振り返ることができます。
単なる数字だけでなくシーン別に確認できることで、分析はより的確に、そして細かくできるようになりました。
映像解析ができるため、味方のチームだけでなく、敵チームの分析も容易になりました。

日本の勝利を救ったトラッキング技術

カタール大会での1次リーグ、日本-スペイン戦の決勝ゴールにつながった三笘薫選手の折り返し。
一見ボールがラインを出たように思いましたが、その絶妙な場面で活躍したのはビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)というトラッキング技術でした。

FIFAワールドカップ 公式Twitterより

VARには2つの技術が使われており、1つはチップを使ったトラッキングシステム。公式球の中に埋め込まれており、正確にボールの位置を測定できるそう。もう1つは「ホークアイ」と呼ばれる技術で、会場に設置されたカメラによって、映像で判断するシステム。
前回大会は「ホークアイ」だけでしたが、今カタール大会でチップを使った技術が加わったそう。

結果、ボールがラインに触れていると判定され、「インゴール」に。田中碧選手が押し込んだ得点は認められ、日本の勝利につながったのです。

サッカー界におけるデータ活用の可能性

サッカー関係者曰く、目で見た印象と出てきた数字の印象は、大きく変わらないとか。
ただ、指導者が選手に説明する際、印象や経験で語るのではなく、データを示し伝えることで説得力は格段にアップしますよね。

技術発展により、選手の長所や短所を詳細に把握できる点は、あらゆる判断における精度を高めているといえそうです。
すでに導入は進んでいますが、W杯のみならず各国のチームがシステムを導入しデータを活用することで、サッカー界全体のレベルアップが実現できるのではと思います。
ビジネスの意思決定を最適化するデータは、世界が愛するサッカーのあらゆる場面にも有効活用ができそうです。

まとめ

今回はサッカーとデータ活用について調べてみました。

身近なデータ活用の事例を、今後も発信していきます。ではまた!

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