【社会起業家取材レポ #01】 食べる人とつくる人が支え合い一緒に「食」と向き合うことのできる社会の実現。
SIACの学生が東北で活動する社会起業家の想い・取り組みを取材する「社会起業家取材レポ」。今回は、SIA2017卒業生の上野まどかさんにお話しを伺いました!
1. 上野まどかさんについて
稲作と畜産(黒毛和牛の繁殖)農家。2012年、大学卒業後、東京の新聞社、広告代理店で勤務。広告代理店では、地域事業部に所属し、地元である登米市の農業をベースにした地域活性事業を担当。2016年1月、宮城県登米市にUターン。現在は、新たに建築した牛舎で、牛の繁殖に注力。東北風土マラソン&フェスティバル実行委員としても活動。SIA2018卒業生。
2. インタビュー | これまでの歩み&今後のvision
上野さんのこれまでの歩み&今後のvisionについてお話しを伺いました。
Q. SIAプログラムで立てたvisionは達成しましたか?
A. まだ、途中です。1歩1歩ですね。
上野さんのvisionは、
「食べる人とつくる人が支えあい一緒に「食」と向き合うことができる社会の実現。」
これは、上野さんが実際に感じている消費者・生産者双方の「食」への意識の低下からきていると言います。近年食べ物が安く手に入ることもあり、食べ物の価値がだんだんと下がってきてしまっています。フードロスなどの問題も顕在化して来ています。
こうした課題感を背景に、「消費者と生産者をつなぐこと」に重きを置いて活動をしています。具体的には、農業体験を実施し生産者と消費者が関わる機会を作ったり、CSA制度で事前に料金をいただいた消費者にお野菜をお届けしたり、東北風土マラソン&フェスティバルの実行委員の活動を通して登米市のお米や仙台牛の魅力を伝えたりと、様々な活動をされています。また、「生産者の意識を変えていくこと」も重要だと語ります。
「生産者は、意外にも照れ屋が多い!」
上野さんのように積極的に食べる人と直接する活動をしている人は珍しいのだそうです。
そこで、消費者と生産者をつなぐことに積極的な農家さんを増やし、ゆくゆくは活動的な農家さんが登米市だけでなく、東北、日本中に!上野さんの活動が、ロールモデルになることを目指しています。
Q. これまでの活動の中でぶつかった壁は何ですか?
A. 圧倒的男性社会ですね。
上野さんの地元登米市で農業をしている方々は、男性の方が多いそうです。みんな優しいけれど、中には考え方が閉鎖的な方もいて、「女が牛を飼うなんて無理だ」と面と向かって言われたこともあったそう。畜産農家さんが集まる会に言っても、農家さんの奥様はいるけど、経営者としての女性は上野さん一人だけ。
そんな環境の中で上野さんは、今後、就農する女性が働きやすいような雰囲気をつくっていきたいと言います。
「いつか認めてもらう!」という強い想いで活動をされています。
Q. 今後はどういった取り組みをしていく予定ですか?
A. 将来的には、我が家で頑張ってくれた母牛の経産肥育
(子牛を産んで役目を終えた母牛)を通して「食」と「命」を伝えたい。
子牛を長年、何頭も産んだ母牛は、痩せて肉が付きにくくなったり、肉が硬くなったりしてまうので、「肉質が悪かったり、お肉としての商品価値が低くなったりする」などのネガティブな意見が寄せられます。
しかし、上野さんにとっては長い期間一緒に生活してきた家族の一員です。まだまだアイデア段階ではありますが、経産肥育牛を現在の出荷や流通だけではなく、一頭一頭の牛の生涯のストーリーとともに消費者へ伝えられる方法を考えていきたいといいます。
また、肉だけではなく、牛は捨てるところが無いので、牛の皮を使った商品を企画して「食」からだけでなく、牛のことを消費者に伝えていけるようになれるよう、試行錯誤しているとのこと。
ここからは、上野さんの人生観に迫っていきます。
Q. 畜産業界をどうしていきたいとお考えですか?
A. 消費者に生産の背景「おいしいの向こう側」を知ってもらいたい。
私たち消費者は、お店で肉を買う時、安さにばかり注目してしまいます。
「和牛は高い!」と思いがちですが、肉の生産過程や流通を知り、どうしてこの価格になるのか、どうしてこのような肉になるのかを理解すれば、肉の魅力は安さではないのだと気付きます。
消費者に畜産について知ってもらうために、上野さんはまず自分の基盤を整えていくことから始めます。畜舎を新築し、牛の頭数を増やしました。牛も人間のように一頭一頭性格が違うし、体調を崩すこともあるので、しっかり一頭一頭の牛と向き合って日々、仕事をするとおっしゃっていました。
Q. visionに向かって走り続ける原動力はなんですか?
A. 「やらないで後悔するよりはやって後悔する方が良い」という考えです。
「やるって決めたらやろう。」
上野さんは、小さな時からそのような考え方を持っていたといいます。
そして、今もっとも興味を持っているのが牛だそう。
もともと母牛が8頭でしたが、牛をさらに飼育するため、所有している山の木を使って牛舎をご自身で建てたのだそうです。(建てる作業は大工さんです。)
現代社会において、消費者は食べ物を食べるとき生産者のことを思い出すことはあまりないと思います。しかし、上野さんが目指している世界は、一人ひとりの消費者・生産者がmy農家・my消費者を持っていること。
「私みたいなことを言う人がいなくなったらいいな。」
上野さんのような活動をせずとも、生産者と消費者が自然につながりあい「食」について意識が高まっている世の中を、登米市から作っていきます。
「スーパーで一つの野菜を買うことも未来への投資の一つ。」
毎日の何気ない行動や選択で未来が変わります。全部は無理でもたまにそのことを意識して、食べ物を選択するのが当たり前になる社会を目指しています。
最後に、上野さんが牛舎を案内してくれました!
「この子は最近生まれた子で、寒いからネックウォーマーをまいています。」
名前を呼びながら牛を紹介している上野さんはすごく生き生きしていて、牛への愛情・感謝が伝わってきました。
私たちも、「食」を当たり前と思わないこと、生産者を知り「食」への価値をもう一度考え直すことが大切になってきますね。
3. 編集後記
この取材は、佐藤扇、加藤謙太郎、渡邊真佑が行いました。
最後に、取材を終えて私たちが感じたことや気づきを書いていきます。
■ 佐藤 扇
『食べることは、生きること。私たちは、命をいただいています。』
これは、SSIS2018の最終発表での上野さんの言葉です。
恥ずかしながら、僕は、生まれたときから当たり前のように食事をしてきて、一度もこのようなことを考えたことがありませんでした。
この言葉を聞いたときに初めて「今ある食環境は、当たり前ではない」ことに気が付きました。
取材の中で、「趣味が牛、牛と向き合っていく人生でありたい」という発言がありました。
上野さんや全国の生産者さんが、どれだけの想いで育てているのかを考えると、「モノ」としてだけの見方は絶対にできないと思いました。
■ 加藤 謙太郎
私は、インタビューを通して、上野さんは「超アグレッシブで超行動的な人」という印象を受けました。父親の反対を押し切り険しい農家の道を歩んだり、男社会の農家界に単身で乗り込んだり、これらを実行しようとするのはかなりの覚悟と勇気が必要です。「でもやらないで後悔するよりはやって後悔する方が良い」と上野さんは言います。上野さんが女性の牛農家の先駆け的存在となり、人々が「食材、そしてこれらを作ってくれる人に感謝しよう」と考えられるようになることを私も強く応援していきたいと感じました。
■ 渡邊 真佑
上野さんが躊躇せず様々なことに挑戦していく行動力の裏側について知ることができました。農家さんは朝が早く忙しい生活を送っているので、疲れているだろうなと思っていましたが、私たちの質問の1つ1つに真剣に答えてくださって、向き合ってくれている感じがして嬉しかったです。「やらないで後悔するよりはやって後悔する方が良い」という考え方が、まさに上野さんを表している言葉だなと感じました。今後は上野さんのように、何にでも躊躇せずまずは取り組んでみようと思います。
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