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【社会起業家取材レポ #19】 画一化ではない、あきない暮らしを。


SIACの学生が東北で活動する社会起業家の想い・取り組みを取材する「社会起業家取材レポ」。今回は、SIA2021卒業生の杉浦風ノ介さんにお話しを伺いました。


1. 杉浦風ノ介さんについて

宮城県栗原市にある六日町通り商店街。
六日町は鉱山を支える町として江戸時代から栄えていましたが、高度経済成長以降、人口減少や交通インフラの変化から、商店街はすっかり色あせてしまいました。

そして、その六日町商店街で古民家カフェ「かいめんこや」を営む杉浦風ノ介さん。
杉浦さんは、京都生まれ、東京育ち。大学時代は青森で過ごしていました。社会人経験も多彩で僧侶として勤めていたこともあったそうです。

そんな杉浦さんには、古民家カフェ「かいめんこや」だけではなく、六日町合同会社の代表社員という顔もあります。同社は、「一人一人が生き生きと暮らせる商店街を作る」をミッションに掲げ商店街の空き家を調査・改修し、店舗を開業したい人とのマッチングを行い、商店街の店舗を増やす試みをしています。

▷かいめんこや web:http://www.kaimenkoya.cafe
▷六日町合同会社 web:https://6machi.site
▷SIA2021最終pitch動画


2. 取り組む社会課題


杉浦さんの取り組む社会課題は、「地方の過疎化」です。

日本全国で、人口減少・高齢化が進み、「過疎」と呼ばれる状況に陥っています。大都市に人が流出し、地方の商店街などは活気を失い、過疎化に拍車をかけ続ける形になっています。

その背景には、「大学を出て、会社員になる」という一般に「普通」と呼ばれる生活が良しとされ、地方から都市への人口流出が当たり前になっているという現状があります。画一化された「普通」が過疎をより深刻にしているのです。

そんな中、活気を失った商店街に再び息を吹き込む動きも出てきています。
中小企業庁の「はばたく商店街30選」は、地域の特性を生かした取り組みを行う商店街を表彰する取り組みですが、杉浦さんの活動拠点である六日町通り商店街も選出されました。

参考:中小企業庁「はばたく商店街30選」
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/sapoin/monozukuri300sha/2021/syoutengai.html


3. インタビュー:これまでの歩み&今後の展望

Q. これまでの経歴の中で、最も印象に残っている経験は何ですか?
A. お坊さんの経験です。

杉浦さんは、大学を卒業してから一年ほど、全国をバイクでフラフラしていたそうです。もう一年フラフラしようと思っていたところ、親から帰って来るようにと言われ、同時に「規則正しい生活をしろ」ということで、お寺に入ることに。お坊さんの学校に入ってからの1年間は、お経の読み方や所作などの勉強や修行を。日々の食事も質素なもので、過酷な修行と相まって肉体的にも精神的にも大変な経験だったといいます。


Q. なぜ地方である六日町で地域を盛り上げる取り組みを行おうと思ったのですか?
A. 大企業ばかりの世の中は面白くないんじゃないのかなと思うからです。

大学を卒業してからの1年間、全国を回っていたときに感じたことが、杉浦さんの根底にあるようでした。「国道を走っていると、どこへ行っても、景色が変わらないんです。大企業の店舗ばかりが並んでいて。バイクを降りて人と話さないと、自分がどこにいるのかもわからない。あちこち回っている意味があるのかな。」と感じたそうです。大学を出て、会社員になるのが"普通"とされる中、マイノリティである個人事業主・自営業が集まる商店街を"面白い"と考えた杉浦さんは、商売したい人を商店街に増やしていき、街を訪れるお客さんも増える好循環を生みたいと考えているといいます。


Q. 社会課題となっている「地方の過疎化」についてどのように思いますか?
A. 人口減少は必ずしも問題ではないと考えています。地方だからこその可能性も感じます。

人口が減っているのは事実。しかし、経済的指標、例えばGDPが大きければ幸せというわけではない。杉浦さんは、現在の資本主義が成長にこだわり過ぎていると感じているといいます。地方では、過疎化が進んでいます。一方で、深刻視される空き家は使える物件になり得るように、地方の現状はむしろ可能性を秘めているとも考えられます。「人口が減ることは他の国と比較したときに、国の力(経済力)が弱くなっていることを示すかもしれないけれども、自分や自分の周りがイキイキと暮らせる環境がある方が大事だと思うし、全国にそのような環境があったらいいな。」とおっしゃっていました。


Q. 「あきない暮らし」という言葉へのこだわりを教えてください。
A. 「あきない人生」に必要なのは"もの"ではなく"人"だと考えています。

杉浦さんは、"もの"は飽きてしまう一方、飽きないのは"人"だと考えているそうで、「都会にはたくさん"もの"が溢れているが、"もの"にはいつか飽きてしまう。一方、"人"には飽きない。歩いていける範囲に、面白い人が100人いたら飽きない人生を送れると思う。」とおっしゃっていました。結局、人間同士が一番面白いのだと。


Q. 「まちづくり」というテーマに取り組むにあたって難しいと感じる点は何ですか?
A. "人"ですね。

「面白いのも"人"だが、難しいのも"人"。」と杉浦さん。
"人"それぞれに思い・考えがあるため、すべての"人"が、自分の思いをわかってくれるわけではないことに難しさがあるのだと。街としてビジョンをかかげて、みんなが向く方向を統一する必要性を感じながら、そう簡単に思うようにはいかないのだともおっしゃっていました。匿名性の高い都会と異なり、人との距離が近く、温かみを感じやすい地方ですが、同時に"人"の難しさに直面しているようでした。


Q. 杉浦さんが次に起こしたいと考えているアクションは何ですか?
A. 地方にない「アート」を充実させたい。

杉浦さんは、地方は「アート」が不足しているといいます。都会には「アート」があふれていますが、地方にはその文化が少ない。アーティストと実際に交流することは面白く、人の生き方や考え方をニュートラルにできる。それが「アート」の魅力であるのだと。「地方にもっともっとアーティストがいるようになればいいな。」とおっしゃっていました。


4. 編集後記

杉浦さんからお話を伺った1時間は非常に充実した時間でした。
「お坊さんの経験」というあまり聞くことができない話を聞けたことも、まさしく"人"の面白さの部分であると感じました。

自分は「地方の過疎化」や廃れていく地方・商店街について、手の施しようがないと考えていましたが、商店街を活気づけ、地域で経済を回し、好循環を生んでいくことがまだまだ出来るのではないかと考えさせられました。例えば、都市で生まれたサービスやツールをそのまま地方に持ち込むのではなく、地方は地方のオリジナルのものを作り使ってもらうことで、これまでの経済の流れを変えることができるかもしれません。

また、アーティストとの交流を通して、考え方や生き方についてのヒントが得られるのではないかという杉浦さんの考えは非常に興味深く、ただ"モノ"にあふれる場所ではなく、"人"と交流できる環境に身を置くことも重要だなと感じております。

実際に六日町商店街は、店舗数も増えていて、賑わいを取り戻しつつあります。
仙台からも1時間半ほどで行けますので、ぜひ一度、足を運んでみてください。

取材・執筆担当:鈴木 智博(東北大学 3年)


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